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896 くれーん

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 街中にて工事現場の近くを通るとき。
 そこに大型のクレーン車の姿があれば、誰もが一度はこんなことを想像したことがあるはずだ。

「あー、アレって倒れたりしないのかなぁ」

 もちろんそんな事態を防止するための安全対策はしっかり施されてある。
 しかし世の中には何ごとにも絶対は存在しない。
 どれほど気をつけていようとも起こるときには事故は起こるものである。
 実際、クレーンが起こす事故がときおりニュースを賑わしているし。

「……とはいえ、この頃、ちょくちょく目にしている気がする」

 そうつぶやいたのはミヨちゃん。
 仲良しのヒニクちゃんといつものごとく仲良く下校していたときのことである。
 たまさかマンションの建築現場の付近を通りかかり、そこで立派なクレーン車が活躍しているのを見物しつつのことである。
 もちろん話の内容が内容なので、現場からは少し離れた場所にて、工事関係者の耳に入らないようにと配慮してのこと。

「台風のときとかに、貨物船のコンテナの荷下ろしをしているクレーンが、グニャリとなった事故の映像を見たんだけど、まぁ、あれはしようがないかなぁって思うの」

 かつてない風速、車が容易く転がり、家の屋根が吹き飛び、電柱が根元からポキポキ折れる。
 風力発電のプロペラまでもがへし折れるような風。
 そんなシロモノ、はなから想定していないので、しかたがない。
 だが建設現場にてクレーン車が倒れるのは、ちと事情がちがう。
 地面の踏ん張りが甘かったり、操作を急ぎ過ぎてヘンなチカラが加わったり、と人為的な要因が多分に目立つ。
 いわゆるヒューマンエラーというものが事故の原因。
 機械は年々進化しており、それに付随して安全対策もよりしっかりしたものになっているはず。
 なのに、ちょくちょく目にしている。
 減るどころか逆に増えているような。

「なにゆえ?」とミヨちゃんは事態を憂いている。

 ある日、突然に、自分自身が、自分の大切な人が、あるいは大切な家や場所が、天突く鉄の柱に一刀両断されちゃうかもしれない。
 でもってグチグチ賠償の交渉で、のちのちまで苦しめられる。
 まさに踏んだり蹴ったりである。

「……っていうか、もしも倒れてきたら、とっさに避けられる自信がない」

 ミヨちゃんがそうつぶやいたところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「注意一秒怪我一生は至極名言」

 過負荷防止装置や安全制御装置などが搭載されているけど、
 機械は杓子定規にて画一的な反応しかできないので、
 操作に慣れた玄人ほど使い勝手がいまいちと感じてしまう。
 だからついスイッチをオフに。結局、人間なんだよねえ。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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