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896 あきまつり
しおりを挟む毎年、秋になると地元の神社の境内で行われている秋祭り。
豊作などを感謝するというもの。
歴史はそこそこ古いらしいけど、特に神楽を舞ったり、祭事を行ったりはしない。
地元の商店が屋台をだし、小さなお神輿を担いで町内を練り歩き、地域の人間が集まって飲み食いしては、やんやと騒ぐ。
お祭りとしては小規模にて、しけしけ。
だから外部の人間がわざわざ足を運んでくることはない。
それでも地元の、それも子どもたちにとっては楽しみにしているイベント。
だというのに……。
「あーあ、夏に続いて秋も中止だなんて。今年はさんざんだよ」
いつものごとく仲良しのヒニクちゃんとの下校中。
ミヨちゃんはボヤきながら足下の小石をこつんと蹴飛ばした。
世界的に流行している感冒。
みんながんばっているけれども、これがとにかくしつこい!
なかなか失くならない。ようやく収まってきたかとおもえば、ちょっと油断するとすぐに盛り返してくる。あっちが下火になったとおもえば、むこうがボウボウと再燃したりと、とにかく厄介なことこの上なし。
流行初期にいろいろとゴタゴタが続いたせいか、誤解やら不信感も根強く、みんなの足並みが微妙にそろっていない現状が、これに拍車をかける。
ついにはしんぼうしきれずに、「あーっ!」となる人も増えて、じりじり混迷中。
うーん。いまいち危機意識や正しい情報が共有しきれていないのが原因なのだろうか?
余波は、とある町の片隅にもおよんでいる。
密なのはよろしくない。
との昨今の風潮を受けて、市役所側からもやんわり「できれば人が集まる行為は、ひかえてもらえるとありがたいんですがぁ」といわれて、責任の所在うんぬんかんぬん並べられては、強行するわけにもいかず。
ついには話し合いのもと、今年は諦めようとなった。
これに子どもたちがガッカリしたのはいうまでもない。
「このまえおばあちゃんが予防接種にいったんだけど、朝一で出かけて、帰ってきたのが三時過ぎだったよ。待合室はイライラした人たちでいっぱい。むちゃくちゃ殺気立っていたって。あれじゃあ、何をしに行ったのかわからないって言ってた」
インフルエンザとダブル流行なんてしゃれにならない! とおおいに懸念されている。
それを回避するための予防接種。ミヨちゃんの住む地域では一定以上の年齢になるとタダで受けられる。
とはいえ、いきなり行っても受けられない。
きちんと事前予約が必要。
だから済ませて病院へと行ったのにもかかわらず、この状況。
ミヨちゃんのおばあちゃんは「こりゃあ、次の波がくるね」と訳知りドヤ顔をしたという。
それを聞いて、「ふだんでもこんな調子なのに、波がきたらどうなっちゃうの?」とミヨちゃんは戦々恐々としている。
小さな胸を痛める幼女。それを受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「スーパーコンピューターの予測って、なんだか微妙じゃない?」
世界一の性能を誇るとかいう機械でのシュミレーション。
結果を見て「ほほう」とうなづくよりも「いや、そりゃそうでしょう」と
なることが多い気が。まぁ、アレに計算できない時点で、誰にも予測不能。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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