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893 めおと

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「必ず中身が多いお皿をとるの」

 とある老婆がグチった。
 夫に対する文句である。
 夕食の準備が終わる頃になると台所に顔をだす夫。
 自発的に配膳を手伝ってくれるのだが、その際にオカズがのった皿を見比べては、必ず自分のところに一番盛りがいいのを置く。
 べつにそれはかまわない。奥さんだってそのつもりだったのだから。でも、毎度毎度、やられると、ちょっとイラっとする。

「みんなで摘まめるようにと大皿で料理を用意するでしょう。すると自分のオカズそっちのけで、大皿ばかりからパクパク食べるの」

 まるで「とられてなるものか」とせっせと食べる夫。
 内心では「誰もとりやしないわよ」と奥さんは呆れている。あと盛り皿に取り分けないで、じか箸で食べ続ける姿にも、けっこうげんなりしている。
 と、べつの老婆がグチった。

「うちはアレね。料理によっては一度にそろえられないから、先に主人に食べさせることもあるの。で、少し遅れて自分の分を用意して食卓につくでしょう。すると必ずジロリ、こっちの分をチェックするの。あー、イヤだイヤだ」

 まるで自分のと比べるかのごとき仕草。
 そんな目つきで見なくても同じだっていうのに。
 ちょっとしたことだけれども、妙に気になる。どうにも浅ましく思えて、あまり気分のいいものではない。
 と、これまたべつの老婆がグチった。

「あるある。わたしは冷蔵庫をガサゴソ漁るのをヤメてほしいわ。あと買い物から帰るたびに、玄関で出迎えてくれるのはいいんだけど、いちいち袋の中身をチェックするのはイヤね。うっとうしいったらありゃしない」

 荷運びを手伝うのはありがたいけれども、さりげなさを装って、買ってきな品を確認する。果物とか自分の好物があればしっかり把握しておき、隙あらば勝手に食す。
 奥さんとしては「ちゃんと考えて買ってきているのに、予定が狂う」と憤慨。
 あと野生の猿よろしく、美味しそうな実を狙うのもかなり腹立たしい。
 そのくせ分けるとか、残すという発想がまるでない。
 と、さらにべつの老婆がグチった。

「むかしは台所に近づくことも、冷蔵庫を開けることもしなかったし、残りモノなんて見向きもしやしなかったのよ。それがいまとなっては、あるモノ出すモノ根こそぎなんだもの。いったいなんなのよ! って感じ」

 四人の老婆のうちの誰かがそうボヤけば、みながいちように「うんうん」とうなづく。
 とある昼下がりの公園の休憩所での一幕。
 それを近くにて聞いていた二人の幼女。
 ミヨちゃんがくすくす笑う。

「旦那さん、ボロクソだねえ」

 するとこれを受けてヒニクちゃんもぼそり。

「悪態をつける相手がいるしあわせ」

 ボヤいたり、グチを言えたりするのは、相方が健在だからこそ。
 でもそのありがたみは、失ってからでしか気づけない。
 ぶちぶち文句を言えているうちは、充分にしあわせ。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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