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892 さかみち
しおりを挟む何もないところでつまづく。
転ぶまではいかないけれども、軽く足をひっかけられたような感じになる。
つま先がガッとなる。
お年寄りだとちょっと危ないかも。
そんな場所がある。
一見するとただのアスファルトを敷いた歩道。
なのに歩いていると、ときおりそんな現象に見舞われる。
これが老人とかならば脚力が衰えたせいで、歩行の際に足がちゃんと持ち上がっていないからといえなくもないけれども、老若男女かかわらずともなれば少々事情が違ってくる。
おかげでその歩道は地元でも微妙に有名な「ふしぎスポット」として認知されている。
そんな場所に偶然通りかかったのがミヨちゃんとヒニクちゃん。
ボール遊びをしようと広場のある公園に向かう途中のこと。
ちょっと急ぎ足。はやくしないといい場所が他の子たちにとられちゃう。
ボールを手に道を歩いていたミヨちゃんが「あっ!」
軽くけつまづいてバランスを崩す。ひょうしに手からはボールが前方へと投げ出された。
あやうく転倒しそうになるも、それは隣にいたヒニクちゃんがとっさに肘を掴むことでふせいだ。
「ありがとう。そういえばここって例の場所だった。うっかりしてたよ」
助けられたミヨちゃん、自分のドジを少し照れながらもヒニクちゃんに感謝を述べる。
でもその表情が「ギョッ」となった。
放り出したはずのボール。
ふつうであれば勢いのままに、前へ前へとてんてん転がってゆくはず。
実際のところ当初はそうやってボールは主から遠ざかっていた。
しかし少しばかり進んだところで、急にこちらへと戻り出したものだから、ミヨちゃんもおもわず目を見開いてしまった次第。
「えぇーっ! なんでーっ!」
投げ出したはずのボールが自分のところに勝手にかえってくる。
事象としてはたいしたことではない。たかがボールだ。
それでも理解の及ばないことが、突然に起こると人は非常に混乱する。
目に見えてうろたえるミヨちゃん。ついに足下までボールが転がってきたもので、それを拾うどころか、「ひっ」と脇に跳んで避けるほど。
ボールはミヨちゃんの足元を通り過ぎ、少し離れたところにてようやく動きを止めた。
この一連の出来事を見ていたヒニクちゃんが、おもむろに口を開く。
「正体みたり枯れ尾花」
うっかり歩いていているとけつまづく。
投げたボールが勝手に戻ってくる。なんてことはない。
歩道が目では判別できない程度に傾斜しているだけのこと。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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