ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

891 ごーるど

　
　仲良しのミヨちゃんとヒニクちゃんが連れだって街中をぶついていると、とある店舗の前を通りかかった。
　ほんの数か月ほど前に華々しくオープンをしたラーメン屋さん。
　評判もよく連日、行列ができるほどの人気店であった。
　だからいつか食べに行きたいと思っていた。
　しかしそんなラーメン店のシャッターは閉じられている。
　風に吹かれて張り紙の端がぴらぴら。

『昨今の世情により、やむなく閉店となりました。短い間でしたがご愛顧いただいた皆様方にはまことに……』

　いくら味がよくてもお客がきてくれないことにはどうにもならない。
　どれだけ宣伝をしようとも、ポイントやらクーポンを乱発しようとも、お店をかまえている以上は来店してもらってなんぼ。
　最近ではデリバリーサービスを活用する方法もあるけれども、あれってしっかり利用料金が上乗せされてしまうから、商品価格に反映される。配送にまつわるトラブルも多い。そして結局のところ大部分の不利益を店側がかぶることになる。
　庶民向けの飲食業は薄利多売が基本。
　そんなことをしていては、とてもではないが営業を続けられなくなる。
　ぶっちゃけクレジットカードやら電子マネーを導入するのもためらうぐらいなのだ。アレの機械やらシステムの利用にもしっかり費用がかかるので。
　ゆえにスタートダッシュを決めて、経営を軌道に乗せたかったはず。
　だがそれはかなわない。むしろブレーキをかけられて足踏みさせられた。
　すべては世界的に流行中の感冒のせい。
　時期が悪かった。運が悪かった。
　それで済ますのは簡単だけれども、お店をかまえるほどなのだから、店主ほか関係者一同は、なみなみならぬ想いにて商売にのぞんでいたはず。
　とてもではないが簡単に割り切れるものじゃない。
　理不尽な事象によって夢が無残に踏みにじられる。その無念たるやいかばかりであろうか。

　少し想像しただけで胸がギュッと締めつけられる。
　張り紙を見上げながら悲痛な横顔をみせたのはミヨちゃん。

「これってば、けっこうヤバい状況なんじゃないの？」

　人気店でも閉店に追い込まれている。ならば微妙なところなんてとても太刀打ちできないはず……。
　すぐそば、身近にひしひしと迫る危機。
　どこか遠い世界の話のように感じていたけれども、気づけばすぐそこに！
　不安がるミヨちゃん。
　これを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「金が高騰しっぱなしらしい」

　戦争やら経済危機など。何か世界的問題が起こるたびに
　人々がこぞって求めるのがゴールド。紙幣は紙屑にかわる。
　宝石類もガクンと下がる。でも金だけはつねに一定水準を保つ。
　そういえばこれまでに採掘された金の総量は、オリンピックの
　プールで四杯分ぐらいなんだって。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。