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877 ほめこうい
しおりを挟む担任のヨーコ先生に「よくできました」とホメられるのはうれしい。
みんなの前でホメられたりしたら、なんとも誇らしい気持ちになる。
自分もうれしいし、みんなもよろこんでくれるから、いっそうがんばれる。
こここからホメるを起点とした好循環がぐるぐる回り出す。
おそらくはある程度の下心をもって、ヨーコ先生もホメている。
ただでさえ飽きっぽい幼子たち、彼らをその気にさせるに必要なおまじないみたいなものなのだろう。
同じホメるでも、困ったケースもある。
ある日、あるご家庭での夕食の一コマ。
見慣れぬ料理が食卓にならび、何気に食べてみると「こりゃあウマい」
だから素直にホメた夫や子どもたち。
普段は黙々と料理を平らげては「ごちそうさま」もロクに言わない家族からホメられて、そりゃあお母さんはうれしかった。
そしてこの日以来、その料理はお母さんの得意料理となり、頻繁に食卓にのぼることになるのだけれども……。
家族の本音としてはこうだ。
「いや、たしかにおしいかったよ。でも、だからってこうもちょくちょく食べさせられるのはちょっと……。いろいろ新しく工夫してくれているのはわかるけど、そんなに変わってなくて、いいかげんに飽きてくるというか、またかって」
結果としてお互いにモヤモヤを抱えて過ごすことになる家族。
これは家族に刺さったトゲ。
やさしさが裏目にでた形。そのモヤっとした不満を墓場まで持っていくのか、何かのひょうしに爆発させるのかはわからない。しかしひとたびあらわとなったときには、きっと傷つく者がいるだろう。
何気なくホメたひと言から始まる、これはホメるを起点とした悪循環。
ホメられたら、基本的に誰だってうれしい。
それがごく自然で心からの称賛であったら、なおのこと。
ホメたほうは覚えていなくても、ホメられたほうはたぶん一生忘れない。
何気ないひと言が、何気ない態度が、他人の心に深く作用することもある。それこそ一生を左右することだって……。
影響力はホメる側の立場にもよるところも大きい。
誰彼かまわずにホメ倒すような人は、付き合う分には気持ちがいいけれども、どこかちょっと信用が置けなかったりもする。
ましてや、相手をヨイショして気持ちよくさせて、いいようにコントロールしようとたくらむ悪党もいるから油断がならない。
逆にめったに人をホメないような人物からホメられたら、それはそれで破壊力がありすぎて困ってしまう。
「とかくホメるという行為は、さじ加減がむずかしい」
いつものごとく仲良しのヒニクちゃんとの下校時に、そうつぶやき「はぁ」とタメ息をついたのはミヨちゃん。
つい三日ほど前のことだ。
高校生の次兄であるタカ兄の服装をミヨちゃんがちょっとホメたら、すっかりその気になった次兄が、以降、ずっと似たようなカッコウばかりをするようになった。
いわゆるその気になって、味をしめてしまったのである。
たしかに似合ってはいるけれども、さすがにそこまで幼女のひと言に左右されるのはどうかと。次兄の先行きがちょいと不安になった。
そんな心配を受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「他人のイヤなところじゃなくて、いいところを見つけましょうとは言うけれど」
ふだんからホメられ慣れていない人ほど、チョロイン。
ふだんからホメ慣れている人ほど、ちょっと要警戒。
異性間でのホメ行為のやりとりは、特に注意が必要だと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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