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875 さきがけ

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 ミヨちゃんとヒニクちゃんが空き地でダンゴムシと戯れていると、ブーンという低いモーター音が聞こえてきた。
 どこから聞こえてきたのかと、二人はキョロキョロ。
 しかし周囲にはそれらしいモノが見当たらない。
 はて? と首を傾げていたら、唐突にそれがすとんと目の前に落ちてきた。
 垂直落下してきたのは、ドローン。
 ちょうどA4サイズのノート二冊分ぐらいの大きさで、色は白。
 造りはしっかりしており、一万円前後のオモチャっぽいのとは明らかにちがう。
 カメラもついているし、各種パーツもごつい。ひょっとしたら業務用?
 ヘタにイジって壊したらたいへんなので、落ちていた小枝にてツンツンしながら、ドローンを遠巻きにしている二人。
 するとドタドタと重たい足音。

「おい、あったか」
「いいや、みあたらない」
「民家に落ちてたらマズイぞ」
「車とかに傷をつけてもおおごとになる」

 なんぞという男たちのあわて声。
 どうやら落とし主が探しているらしい。
 まぁ、高額な品っぽいし、気の毒におもった二人は男たちに「こっちだよ」と親切に教えてあげた。
 ドローンの落とし主はミヨちゃんらの予想通りにて、業者の人。
 ちゃんと市から依頼を受けて、とある老朽化が懸念される公共の建物の調査をしていたのだが、うっかり風にあおられてフラフラと。
 どうにか制御しようとしているうちに、どんどん流されてコントロールを失ってしまったんだとか。
 彼らからたいそう感謝されたミヨちゃんたち。お礼にとジュースをおごってもらった。おそらくは口止め料込々なのだろう。その意をくんだミヨちゃんたちは黙って受け取る。

 土手の階段に腰を降ろし、お礼にもらったジュースを二人で仲良く飲んでいたミヨちゃんとヒニクちゃん。
 微炭酸のオレンジジュースをグビグビ飲んでから、「ケフ」っとかわいいげっぷをしたミヨちゃん。しみじみ「時代はかわったねえ」とつぶやかずにはいられない。
 いまやドローンで検査をする時代になったのだ。
 かつてはわざわざ足場を組んだり、屋上からぶら下ったり、クレーン車を用意したりせねばならなかったことを考えれば、リモコン操作でギューンと飛ぶだけで済むのだから、とっても便利。
 そりゃあ横風とか、天候などに左右されるけれども、それは他の方法とて同じこと。
 ずっと気軽に使えて、空を飛ぶことでこれまで見えにくかったところまで、チェックできるようになったのは行幸であろう。
 ドローンは社会に変革をもたらす。空の産業革命。
 みたいな意見をよく耳にするけれども、いまさらながらに実用化されている姿を間近に見て、それを実感した二人。

「てっきりカメラがついたラジコンぐらいにしか考えていなかったけど、意外にも応用が利くみたいだね。宅配便でも活用するという話もあるし。でも……」

 感心しつつも少し首をかしげるミヨちゃんはこう続ける。

「でも日本の土地ではどうだろう? だって街には電柱と電線だらけだし、家と家も密集しているし。空飛ぶ車とか夢が広がるけど、実際のところちょっとムズカシイかなぁ」

 海外ならばともかくゴミゴミした国では、ちょっとドローンには狭すぎる。
 かといって広大な土地があっても、天候が荒れるから、やっぱり心配。
 いくら姿勢制御機能があっても、突風が吹いたらヤバいだろうし。
 そう考えると、「あれ、じつはそれほどでもない」とミヨちゃん。
 これを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「ドローンの歴史は案外古い」

 原型の無人機は第二次大戦中に開発されていたんだとか。
 産業化の先駆けはヤマハの農薬散布用のラジコンヘリだけど、
 どうやら時代を先取りし過ぎたらしい。技術先行で市場置いてけぼり。
 それにしても、なにげにこのパターンが多い気がする。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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