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872 こめんと
しおりを挟むワイドショーにてコメンテーターがやいやい意見を述べている。
専門知識にもとづいたしっかりしたものもあれば、まったく関係のない芸人さんが気のきいたコメントをするときもある。
役者さんだったり、落語家さんだったり、学者さんだったり、なんちゃら研究所の所長さんだったり、お医者さんだったり、作家さんだったり、弁護士さんだったり、元政治家さんだったり、誰? という人だったり……。
やたらと広く大衆に支持される人もいれば、話の内容はたしかなのに何故だか嫌われちゃう人もいる。
いろんな立場の人たちが、世間に起こったさまざまなことについて、いろんな意見を口にする。
正しいとか、不適切とか。
そういった細々としたことは、のちのちにならないとわからない。
また世間の受け止め方ひとつで、がらりと印象がかわるから、あまりあてにならないかも。
とにもかくにも一億総評論家にて、誰もが気軽にコメントできるようになりつつある時代。
一方でこんな意見もよく耳にする。
「素人がでしゃばって、適当をいってんじゃねえよ」
お医者さまでもない人が、知ったかぶりで自論を展開する。
虚実が入り交じった内容にて、真に受けたらちょっとたいへんかもしれない。
だから「素人」が口を出すな!
という話。
でもちょっと待って。
ひと口にお医者さまといっても、現代のドクターは専門分野に特化した体系にて、なんでもかんでも詳しいわけじゃない。
内科と外科のちがいはもちろんのこと、感染症ともなればまったくの畑ちがい。
じゃあ、その筋の専門家なれば問題がないのかというと、これまたそうでもないから困りもの。
同じジャンルの学者とて、すべてが同じ考えというわけじゃない。
わかりやすい例えをあげれば「うがい」がその典型。
衛生の手段として、古くから推奨されてきたものの、その有効性については、いまだに議論が行われ続けている。
「あれにたいした効果はない」と切り捨てる専門家がいる一方で、「いやいや、続けていたら調子がいいよ」という人もいる。
「やらないよりかは、やった方がいいよ」という人もいる一方で、「うがい薬とか、やりすぎたら逆効果だ」と反論する人もいる。
イメージ的にはなんとなく体に良さそうな気がしなくもないけど、たったあれだけのことでウイルスから身が守れるというのも、ちょっと安易な考えっぽい。
手洗いぐらい明確な効果がでれば、誰もが納得できるのだけれども、とにかく微妙なのだ。
よしんば明確な答えと結論が出たところで、きっとあーじゃこーじゃとゴネて、続ける人も一定数は残るだろう。
人間は見たいものを見て、信じたいことを信じる。
真実を必ずしも認めない。
そういう生き物なのだから。
「で、話は素人のコメントに戻るんだけど、あれって視聴者を代弁している立場だから、どうしたって一番支持数が多くなるんだよねえ」
とはミヨちゃんのご意見。
専門家は少ない。ただでさえ限られた数なのに、その中でさえ賛否が分かれている。
少数精鋭だけど、あまりにも派閥が小さすぎて、もはや機能していない。
有象無象と闘うには多勢に無勢にもほどがある。
そして素人は専門家を頼りとし、権威をありがたがり、信用もしているくせに、先の性質のせいで自分が聞きたくない情報からは目をそらし、耳をふさいじゃう。
「誰もがコメントできるのはいいことだと思うけど、なんでもコメントできる環境はちょっとちがう気がするんだよ」
インターネットにあふれる心ない言葉。無責任な誹謗中傷。
その被害がじわじわと現実社会を蝕んでいる。
現状を危惧するミヨちゃん。
これを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「共感も批判も拒絶よりかはマシなのかしらん」
大々的に規制をすれば言論の自由が失われ、
性善説に頼れば、手痛いしっぺ返しを食らう。
かまっても、かまわれなくても、こじれる人間関係。
よくもこんな繊細な生き物がこれまで生き残れたものである。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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