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868 ばなな
しおりを挟む本日、小学校の給食のデザートにバナナが出た。
上級生たちは丸ごと一本だけど、下級生は半分だけ。
だって、食べきれないから。
だからとて半分だけという扱いは、少々、納得がいかない。
なんだか「お子ちゃまは半分でいいんだよ。ケケケケ」と侮られているみたいで、ちょっと悔しい。まぁ、立派なバナナを丸々一本だされても、食べきれない子の方が多いのも事実なのだけど。
そんなわけで、給食の締めとして、半分だけのバナナをもぐもぐ食べたミヨちゃんなのであったが、その日の帰り道のことである。
いつものごとく仲よしのヒニクちゃんとテクテク歩きながら、「ねえ知ってる?」とミヨちゃんが話題にしたのは、そのバナナのこと。
食用に適した甘くて美味しいバナナは世界中で広く栽培されている。
だからこそみんなが食べられる。
しかしあまり知られていないことだけど、バナナはタネを作らない。
枝分けによって栽培するのだ。
切り離した体を、別個に再生させているようなもの。
とどのつまりはクローンなのである。
だからこそ品質も味も安定しており、形もバナナらしいのだけれども、欠点もある。
それは遺伝子上の差異に乏しいがゆえに、たった一つの病気で全滅する危険があるのだ。
種の保存の観点に立てば、極めて弱者。
それがバナナという果物。
もっともそれも昔の話。
なにせ現代には「遺伝子組み換え」なる技術がある。
ちょちょいとイジれば、あらふしぎ!
病弱バナナくんも、たちまちムキムキボディのモテバナナに。
なんてことも可能だけれども、どうにも口に入るものをいじくるという行為には、抵抗を感じる人が多いらしく、遺伝子組み換え食品への風当たりは強め。
一方で、やってるところはじゃんじゃんやってるし、開発された商品を積極的に市場に投入もしている。
「そりゃあ国とか、文化とか、考え方とか、いろいろあると思うよ。でもあんまりかたくなだと、気づいたときには置いてけぼりになってないか、ちょっと心配」
バナナから、まさかの遺伝子技術へと話の枝葉をのばしたミヨちゃん。
その理由は……。
「だってITとかぜんぜんダメだったじゃない。リモートとか在宅とかちっとも定着してないし」
スマートフォンが普及して、技術革新がモリモリ推進されて、回線もぎゅんぎゅん速くなっている。SFちっくな未来がすぐそこに!
と安心していたら、フタを開けてみたらスマートフォンがあまりにも便利すぎて、それに依存しきり。肝心のパソコンの方がおろそかになって、ロクに使えないという珍現象も起きているらしい。
これで先進国とはちゃんちゃらおかしい。
「まぁ、まったく使えないわたしが心配するのもなんなんだけどねえ」
まだ小学二年生だから自分用のスマートフォンはない。パソコンも兄たちは持っているけど、自分は触れる機会がほとんどない。
それはそれでちょっと心配なのだが、いまのところ支障がない。
でもそれは現代社会では少数派にて、異質な存在となりつつあることも事実。
かといってみんなが一部の機器に頼りっ切りの社会はどうなの?
それってかつてのバナナと同じことなんじゃあ……。
というのがミヨちゃんの危惧。
これを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「案外、現代文明はあっさり滅びるかもしれない」
要となる何かが破壊されたとき。世界がドミノ状態に陥る。
便利になり過ぎるのも、距離が近づき過ぎるのも考えもの。
はてさて、人類ドミノを倒すのは、いったい何かしらん。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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