上 下
862 / 1,003

868 ばなな

しおりを挟む
 
 本日、小学校の給食のデザートにバナナが出た。
 上級生たちは丸ごと一本だけど、下級生は半分だけ。
 だって、食べきれないから。
 だからとて半分だけという扱いは、少々、納得がいかない。
 なんだか「お子ちゃまは半分でいいんだよ。ケケケケ」と侮られているみたいで、ちょっと悔しい。まぁ、立派なバナナを丸々一本だされても、食べきれない子の方が多いのも事実なのだけど。
 そんなわけで、給食の締めとして、半分だけのバナナをもぐもぐ食べたミヨちゃんなのであったが、その日の帰り道のことである。
 いつものごとく仲よしのヒニクちゃんとテクテク歩きながら、「ねえ知ってる?」とミヨちゃんが話題にしたのは、そのバナナのこと。

 食用に適した甘くて美味しいバナナは世界中で広く栽培されている。
 だからこそみんなが食べられる。
 しかしあまり知られていないことだけど、バナナはタネを作らない。
 枝分けによって栽培するのだ。
 切り離した体を、別個に再生させているようなもの。
 とどのつまりはクローンなのである。
 だからこそ品質も味も安定しており、形もバナナらしいのだけれども、欠点もある。
 それは遺伝子上の差異に乏しいがゆえに、たった一つの病気で全滅する危険があるのだ。
 種の保存の観点に立てば、極めて弱者。
 それがバナナという果物。
 もっともそれも昔の話。
 なにせ現代には「遺伝子組み換え」なる技術がある。
 ちょちょいとイジれば、あらふしぎ!
 病弱バナナくんも、たちまちムキムキボディのモテバナナに。
 なんてことも可能だけれども、どうにも口に入るものをいじくるという行為には、抵抗を感じる人が多いらしく、遺伝子組み換え食品への風当たりは強め。
 一方で、やってるところはじゃんじゃんやってるし、開発された商品を積極的に市場に投入もしている。

「そりゃあ国とか、文化とか、考え方とか、いろいろあると思うよ。でもあんまりかたくなだと、気づいたときには置いてけぼりになってないか、ちょっと心配」

 バナナから、まさかの遺伝子技術へと話の枝葉をのばしたミヨちゃん。
 その理由は……。

「だってITとかぜんぜんダメだったじゃない。リモートとか在宅とかちっとも定着してないし」

 スマートフォンが普及して、技術革新がモリモリ推進されて、回線もぎゅんぎゅん速くなっている。SFちっくな未来がすぐそこに!
 と安心していたら、フタを開けてみたらスマートフォンがあまりにも便利すぎて、それに依存しきり。肝心のパソコンの方がおろそかになって、ロクに使えないという珍現象も起きているらしい。
 これで先進国とはちゃんちゃらおかしい。

「まぁ、まったく使えないわたしが心配するのもなんなんだけどねえ」

 まだ小学二年生だから自分用のスマートフォンはない。パソコンも兄たちは持っているけど、自分は触れる機会がほとんどない。
 それはそれでちょっと心配なのだが、いまのところ支障がない。
 でもそれは現代社会では少数派にて、異質な存在となりつつあることも事実。
 かといってみんなが一部の機器に頼りっ切りの社会はどうなの?
 それってかつてのバナナと同じことなんじゃあ……。
 というのがミヨちゃんの危惧。
 これを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。 

「案外、現代文明はあっさり滅びるかもしれない」

 要となる何かが破壊されたとき。世界がドミノ状態に陥る。
 便利になり過ぎるのも、距離が近づき過ぎるのも考えもの。
 はてさて、人類ドミノを倒すのは、いったい何かしらん。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...