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しおりを挟む見慣れた街角だったはず……。
なのにふいにゾクリとした。うなじがチリチリする。
街並みは十年以上もほとんど変わっていない。実際はもっと長い間こと、そのままなのかもしれない。
けれどもよくよく見て見れば変化はあった。
門扉に表札はなく、雨戸も締め切ったまま、庭も荒れ放題の家が目立つ。
通りに人の姿はなく、家の敷地内から吠えるイヌの声もなく、遠くに車のエンジン音が聞こえるだけ。
もちろん住民がまったくいないわけではないのだろう。
でも日中は勤めに出ているのか、生活音もせず、とにかく存在が感じられない。
とても閑散とはしている。しかし不穏さはない。ゴーストタウンというほどでもない。
ごくありふれた景色であることだけはまちがいない。
なのにどこか異質な空間にて、そんな場所に足を踏み入れたミヨちゃんは、何やらそら恐ろしくなってしまった。
当初の予定では、次の角を左に曲がるつもりであったのだけれども、家の庭より道路にはみ出た草木によって視界がふさがれており、ここからでは向こうがどうなっているのかわからない。
なんてことのない曲がり角。
恐れる要素は何もないはず。
でもミヨちゃんは足がすくんだ。
ふいに風が吹いて、周囲の草木がカサカサと枝葉をゆらす。
孤独感がぐっっと強まり、ついには耐えかねたミヨちゃん。きびすを返して、その場所から逃げ出した。
なんてことがあったという話を教室でしたミヨちゃん。
これを聞いたクラスメイトたち。
「あー、ちょっとわかるかも」
うなづいたのはリョウコちゃん。恵まれた体躯と運動神経を持ち、地元のサッカーチームに所属するスポーツ少女は、自主練でよく走っている。
だいたいコースは決まっているのだけれども、たまに気分転換でちがうところを走る。
とはいってもあくまで知っている道だ。
で、ときおり空白の時間に遭遇することがあるという。
それは日常の隙間のような時間にて、街中なのにまるで隔離されたように感じる。
「どこを見ても誰もいないし、空に鳥もいないし、とにかく何も聞こえないの。へんな悪夢に迷い込んだみたいで、あれは気持ちわるいよ」とリョウコちゃん。
これに「それなら団地にもあるよ。夜になると、とたんに静まりかえるの。たくさん部屋があっても、すごく暗いんだ。みんな部屋にはカーテンをしているから」と言ったのはチエミちゃん。
団地住まいゆえににぎやかなのかと思えば、さにあらず。
たしかに日中はとてもにぎやか。でも陽が暮れると一転して静まりかえる。
なぜなら寄り集まって生活しているからこそ、お互いに周囲に気をつかうから。
まるで息を潜めているかのようになり、がらりと雰囲気がかわるので、「ちょっとおっかないかも」とチエミちゃん。
みんな生活の中に「あれ?」と首をかしげる瞬間があると知って、ミヨちゃんが少し表情を和らげる。
なおアイちゃんにも訊ねたかったのだけれども、この手の怪しい話は苦手なクラスのオシャレ番長は、とっくに退避しており、話しを聞けずじまい。
これらを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「隙間にもいろいろあるから」
日常から非日常へと通じて、はっとする隙間もあれば、
自分らしく、ほっとひと息つける隙間も存在している。
ただし、乗じてくる性質の悪いのもあるから、気をつけて。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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