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860 感性
しおりを挟む着せ替え人形の首がポロリともげた。
近所のお姉さんにもらったお古のオモチャながらも、付属品が充実しており、気に入っていたからずっと大切に遊んでいたのだけれども。いかにメーカーが苦心して頑丈に作ったとて、壊れるときには壊れる。
だからしかたがないこと。
しかし、なかなかショッキングな姿。
これにおもわず「おっふ」と声をもらしたのは、遊んでいた当人であるミヨちゃん。
首がない状態は完全にホラー。なまじ人型なのがいけない。生々しくってどうにも落ちつかない。
そこでボンドでくっつけようとしたのだけれども……。
「あれ? ないなぁ」
首をかしげるミヨちゃん。この手の道具類はいつも電話台の引き出しに入れられてあるのに見当たらない。
ヒニクちゃんといっしょになって近くを捜すも、やはりどこにも見当たらない。
お母さんにたずねても、「知らないわよ」
おばあちゃんにたずねても「はて」と首をかしげられる。
で、リビング中をガサゴソあさってようやく発見できたのだけれども、それは黄色いケースに入った木工ボンドであった。
「さすがにこれじゃあダメだよねえ」
対応素材じゃないので、たぶんくっつかない。
しようがないのでボンドはあきらめて、ミヨちゃんは絆創膏にて応急手当をする。
「今度、百均に行ったときにでも買って修理することにしよう」
ありあわせの品で済ませる。
べつにめずらしい話じゃない。
そしてついつい日々の忙しさにかまけてそれっきり。うっかり忘れてしまうことも。
ある日のこと。
押し入れを整理しているときに、首がない人形を発掘して「あっ!」
でも今度はだいじょうぶ。
いつの間にやらボンドが、電話台の引き出しに戻っていたから。
そこでさっそく修理をと思ったら、今度は肝心の首がどこにもない!
押し入れ中を捜してみたのに、見当たらない。
モゲたひょうしにどこぞに入り込んでしまったらしい。
だから荷物を片っ端からあけて探すも、どうしても見つからない。
失せ物捜しはムキになっているときにかぎって見つからず、忘れた頃にひょっこり意外な場所で発見されたりするもの。
「さすがに捨てたってことはないから。きっとそのうち出てくるよね」
かくして首のない着せ替え人形は、しばし押し入れの奥で眠りにつくことを余儀なくされた。
だがしかし……。
「自分の部屋の押し入れに、首なしがいると思うと、ちょっと落ちつかないんだよ」
ふと見たら、自室の押し入れの戸が少し開いている。
ちゃんと閉め忘れたのは、誰あろうミヨちゃん自身のはず。
けれども、そんな瞬間に限って思い出しちゃうのが、例の首のもげたお人形さんのこと。
いろいろベタな妄想をしちゃって、どうにもこうにも。
なんぞというグチを聞かされたヒニクちゃんが、おもむろに口を開いた。
「物の見え方はわりと適当」
首がない。腕がない。どこかが壊れている。
だからこそ美しいとされる有名な像がある。
一方で同じなのに、やたらと気味悪がられる人形もいる。
人間の認識やら感性なんて、そんなもの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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