842 / 1,003
848 じどう
しおりを挟む世界的流行感冒のせいで、ずいぶんとオタオタしていた世間も、ようやく落ちつきを取り戻しつつある今日この頃。
ひさしぶりに図書館へと行ったミヨちゃんとヒニクちゃんの二人。
館内の閑散っぷりに驚愕。
「ガラガラだよ。いつもは週末になるといっぱいだったのに……」
この図書館は館員たちのアイデアが満載にて、利用者がより快適に書籍に接せられるようにとの配慮が随所にみられていた。
幼児むけの図書コーナーでは、親御さんともどもくつろげるようにと、靴を脱いで遊べる特別空間が設けられていたり、目が不自由な人用の大きな文字の本がそろった区画があったり、ゆったり読書を楽しむための一人がけのソファーが並んでいたり、館内のいたるところに腰を休めるベンチがあったり、棚の背があまり高くならないようにしてあったり。他にも音楽会や朗読会、人形劇などの各種イベントも月二回ペースで催されており、とっても好評をはくしていた。
それが今では、何やら陰鬱な気配が漂っており、かつてはにこやかに応対してくれていたカウンターには透明なビニールシートがかけられて、内外を仕切っている。
館員たちがみんなマスク姿なのはしようがないとしても、それにしたってとても陰気な雰囲気である。まるでひと昔前の図書館に逆戻りしたかのよう。
心なしか照明も薄暗く、あまりの静けさに本当にやっているのかわからなくて、ミヨちゃんらが一瞬、立ち入るのに躊躇したほど。
「……なんていうか、妙にさむざむしいものを感じる」
嘆くミヨちゃん。
かつての笑顔と光あふれる温かな空間を懐かしむ。
まだまだ試行錯誤につき、手探りにて加減もわからないのが現状。
これが過剰対応なのか、それとも足りないのかもわからない。
だからしようがない。
たとえ「三十分以上の利用はご遠慮ください」との世知辛い張り紙に追いたてられるようにして、本を借りることになろうとも。
「のんびり本を選べないのはつまんないねえ。検索システムでパッと探している本が見つかるのは便利だけど、ぶらぶらしながら気になる背表紙に手をのばすのが楽しいのに」
膨大な数を誇る図書。
その中からたまさか出会う奇縁。
偶然か、はたまた運命か。
一冊の本が、たった一文が、あるいは言葉が、人の一生を左右することもある。
そういう機会が大幅に目減りしていることに、ミヨちゃんは「つまんない」とぷんすか。
これを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「災禍で失われるモノもあれば、新たに誕生するモノも多々」
風が吹けば桶屋がもうかるではないけれども。
ピンチをチャンスに、窮地がおもわぬ発明を産むこともある。
成功する人ってのは、何度でも立ち上がりへこたれない。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる