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848 じどう

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 世界的流行感冒のせいで、ずいぶんとオタオタしていた世間も、ようやく落ちつきを取り戻しつつある今日この頃。
 ひさしぶりに図書館へと行ったミヨちゃんとヒニクちゃんの二人。
 館内の閑散っぷりに驚愕。

「ガラガラだよ。いつもは週末になるといっぱいだったのに……」

 この図書館は館員たちのアイデアが満載にて、利用者がより快適に書籍に接せられるようにとの配慮が随所にみられていた。
 幼児むけの図書コーナーでは、親御さんともどもくつろげるようにと、靴を脱いで遊べる特別空間が設けられていたり、目が不自由な人用の大きな文字の本がそろった区画があったり、ゆったり読書を楽しむための一人がけのソファーが並んでいたり、館内のいたるところに腰を休めるベンチがあったり、棚の背があまり高くならないようにしてあったり。他にも音楽会や朗読会、人形劇などの各種イベントも月二回ペースで催されており、とっても好評をはくしていた。
 それが今では、何やら陰鬱な気配が漂っており、かつてはにこやかに応対してくれていたカウンターには透明なビニールシートがかけられて、内外を仕切っている。
 館員たちがみんなマスク姿なのはしようがないとしても、それにしたってとても陰気な雰囲気である。まるでひと昔前の図書館に逆戻りしたかのよう。
 心なしか照明も薄暗く、あまりの静けさに本当にやっているのかわからなくて、ミヨちゃんらが一瞬、立ち入るのに躊躇したほど。

「……なんていうか、妙にさむざむしいものを感じる」

 嘆くミヨちゃん。
 かつての笑顔と光あふれる温かな空間を懐かしむ。
 まだまだ試行錯誤につき、手探りにて加減もわからないのが現状。
 これが過剰対応なのか、それとも足りないのかもわからない。
 だからしようがない。
 たとえ「三十分以上の利用はご遠慮ください」との世知辛い張り紙に追いたてられるようにして、本を借りることになろうとも。

「のんびり本を選べないのはつまんないねえ。検索システムでパッと探している本が見つかるのは便利だけど、ぶらぶらしながら気になる背表紙に手をのばすのが楽しいのに」

 膨大な数を誇る図書。
 その中からたまさか出会う奇縁。
 偶然か、はたまた運命か。
 一冊の本が、たった一文が、あるいは言葉が、人の一生を左右することもある。
 そういう機会が大幅に目減りしていることに、ミヨちゃんは「つまんない」とぷんすか。
 これを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「災禍で失われるモノもあれば、新たに誕生するモノも多々」

 風が吹けば桶屋がもうかるではないけれども。
 ピンチをチャンスに、窮地がおもわぬ発明を産むこともある。
 成功する人ってのは、何度でも立ち上がりへこたれない。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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