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841 じたん

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 ほんのわずかな時間で、何品もの料理を調理する。
 朝の忙しい時間に、いくつもの用事をこなす。
 何かをしながら、何かを同時平行して片づける。
 ムダを廃止、日々を効率よく過ごすことで、あまった余暇を他のことに使う。
 有意義に生きる。
 時間は貴重。時間は限られる。時間は平等。
 こればっかりはいくら大金を積んでも買えない。過ぎ去った時は戻せない。
 そして人生の時間もまた有限。
 そんなわけで……。

「ちかごろ、時短という言葉をよく耳にするんだよね」

 いつものごとく、仲良しのヒニクちゃんとの下校途中のこと。
 ミヨちゃんが流行ワードについて言及する。
 この頃、生き方が多様化している。
 身の回りから極力、モノを廃して身軽となり、広々とした空間にて、スッキリした環境で暮らすミニマリスト。
 通信環境の充実化にともない、都会の喧騒を離れて地価の安い地方での暮らしを選ぶ人たち。
 人間関係や代々の土地に縛られることなく、より快適な環境を求めて彷徨うフットワークの軽い流民。
 文明の利器を必要最小限にとどめて、あえて昔ながらの生活を目指す者たち。
 一方で過剰なまでに煌びやかな都会に固執する者たち。
 利便性、主義、主張、経済格差……。
 いろんな事情を抱えた人たちがいて、いろんな考えが起こり、各々に共感を覚えた人たちがこれを実践しては、発展したり、自然消滅したり。
 それらを完全に受け入れるまでの懐の深さは、現代社会にはまだ育っていない。
 それでも認知して、「まぁ、好きにしたら」と言えるぐらいには余裕がある。
 少々小難しい話になったが、ようはダイエットと同じ。毎年、ポコポコと発生しては泡沫のごとく消えるをくり返しているということ。
 正解、不正解は関係ない。
 普及するしないは時の運。多分に社会情勢に左右される。
 時短をもてはやすのもまたこれと同じ。そのようなものだと語るミヨちゃん。

「でも一方で、時短営業はあまりいいイメージがないよねえ」

 世界的流行感冒のせいで、大人のお店は夜間営業は控えてとの御上のお達し。
 ミヨちゃんみたいに夜は家でおとなしくしている世代には、それがどのような影響をおよぼすのかが、いまいちピンとこない。
 お酒を飲まない人間には、外で気軽にお酒が楽しめない苦しみが理解できないのと同じ。
 制約とは、当事者以外には理解されにくいもの。
 だからミヨちゃん的には「無理して夜遅くまでがんばらなくても、昼間に働けばいいじゃない」と思ってしまう。
 そもそもお子ちゃまでは、夜の経済活動がいかばかりの規模にて、どれほど社会に貢献しているのかなんて、想像もつかないのである。
 これを受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「昼遊び、昼酒を許容すれば問題即解決」

 大人のお店は夜。という社会通念をぶっ壊す。
 どうせ今回の件でいろいろと破綻をきたしたのだから、
 ついでに、そっちも壊せばいい。宵闇に固執する必要はない。
 そもそも子どもに夜遊びを禁じ、大人だけ楽しむのがおかしい。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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