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837 かるた
しおりを挟むミヨちゃんとヒニクちゃん。
仲良しの二人は今日もいっしょ。
ミヨちゃんの家で遊ぼうということになって、何をしようかと考えながら押し入れをガサゴソ漁っていたら、見つけたのはカルタ。
お正月の遊び。
真冬の遊びをあえて真夏にやる。
このミスマッチがちょっと新鮮。
とはいえ二人では楽しめないので、あとで家族のだれかを巻き込み読み手をしてもらおうかと考えたのだけれども……。
「あれ? 読み札がない」
ミヨちゃんがいくら探せども、どこにも見当たらない。
カルタならば絵札とセットで保管してあるはずなのに。
「どこかに紛れ込んじゃったのかなぁ」
行方不明の読み札に首をかしげるミヨちゃん。
これではカルタ遊びは出来ないのであきらめるのかと思いきや、さにあらず。
「よし! だったら自分たちで読み札を作っちゃおう」
絵を見て、割り振られているひらがなを用いて、それっぽい文章を自分たちで考える。
あっさりあきらめるのではなくて、逆境すらも遊びにかえる発想の柔軟さは、さすが。
でもひらがなはあ行から始まり、わ行を経て「ん」で終わるから、総数四十八。
つまりすべての読み札をそろえようとすれば、四十八もの文章を考える必要がある。
これってけっこうたいへん。
最初のテンションもどこへやら。
さ行を終える頃には、すでにげんなりしていたミヨちゃん。
そしてあることにも気づいてしまい、ますますやる気を喪失。
それは「自分で考えた文章ゆえに、実際にカルタ遊びをしても、いまいち楽しめない」ということ。
すなわち自分で書いた小説を自分で読むに等しい行為。
よく理解している反面、次の展開がわかっているから、ちっとも楽しめない。またいかに内容に優れていようとも、くり返し反復すれば、いかな名作傑作とて、ちと飽きる。
さらには二人きりのカルタ遊びというのも、いささか味気ない。
百人一首のように対面で競うのならばともかく、なにやら空々しい展開になるのが容易に想像がつき、ミヨちゃんのやる気をさらに減退させた。
た行まではどうにか仕上げるも、そこでついにミヨちゃんが根をあげ、これにて終了。
カルタの絵札を手裏剣のように投げて遊びはじめるミヨちゃん。シュッシュッシュッ。
なかなかのコントロール。しっかりした造りゆえにカルタの絵札はよく飛び、的替わりに立てた本をパタパタ倒す。
それを尻目にヒニクちゃんがぼそり。
「そういえばお宮と富山の出会いはカルタ会」
名作「金色夜叉」のヒロインとその結婚相手。
ヒロインを寝取られた主人公貫一の復讐劇なんだけど。
カルタ遊びが合コン替わりとか、古き良き時代を感じる。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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