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833 びょうぶ

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 ミヨちゃんのおばあちゃんの友人にて、もと売れっ子芸者のやっこ姉さん。
 歳をとってもシャンとしており、和装を着こなす粋な老嬢。いまは三味線のお師匠さんをしながらの悠々自適な生活をしている。
 近所に家があるから、ミヨちゃんとヒニクちゃんはちょくちょくお邪魔しており、本日は屋根裏部屋を片付けるというから、お手伝いに参上。

「屋根裏部屋って、ちょっとあこがるよねえ」

 そんなことを話しながら、ミヨちゃんがうっすら溜まった汚れを専用のホコリとりでそーっと拭く。
 綿菓子みたいなモコモコにて、静電気でホコリを集めるすぐれものの掃除器具。
 ある程度、ホコリをとってからヒニクちゃんが雑巾でサッっと拭く。
 屋根裏には行李や木箱がいくつもあって、中には着物やら食器やら本に装飾品や掛け軸などがおさまっている。
 やっこ姉さんは「欲しいのがあったら適当に持っていっていいよ」と気安く言うけれども、なにやらいわくありげな骨董品やら、高そうな壺とか皿も混ざっており、いかに親しい間柄とはいえ、「ラッキー」と貰うわけにはいかない。
 いくらやっこ姉さんが了承したとて、そんな品を家に持って帰ったら、きっとお母さんに叱られてしまう。
 だからミヨちゃんとヒニクちゃんらは、掃除がてら眺めて楽しむに留める。

 そうこうしていたら背の低い桐箪笥の裏にて、壁との隙間に転がる品を発見した。
 折りたたまれた小さなフスマのよう。
 ひろげてみたら、それは山水画が描かれた屏風であった。

「へー、なにやらお宝のニオイがするよ。でも、飾るにはちょっと物々しいかなぁ」

 屏風の片側をひろげながら、そんな感想を口にしたミヨちゃん。けれどももう片方を開けたところで「ぎゃっ」とのけぞる。
 右半分は風光明媚な山水画。
 なのに左半分は月光の下にて、木陰にたたずむ濡れ幽霊。
 しかも珍しいことにマゲを結った男の人。
 幽霊画では圧倒的に女性をモチーフにしたものが多い。
 なんというか、女性の方が絵になるのだ。雰囲気もある。男のそれはただただむさ苦しいだけ。
 寝苦しい夜にヒヤッ、ゾクリ、としたいのに、むわんと汗かおる男では、ちょっと……。

「ふつう、この手の絵だとたいていは女の人なんだけどねえ」

 だからミヨちゃんも「めずらしい」と口にする。
 とはいえ男の人の幽霊は、けっこうな美形であった。
 ヒニクちゃんとミヨちゃんが二人して、しげしげ屏風を眺めていたら、そこに顔を出したのはやっこ姉さん。屏風をひと目見るなり、「あれま! また古い品を持ち出してきたもんだよ。長いこと見かけなかったから、てっきり処分したかと思ってたけど、まだあったんだねえ」と懐かしそうに目を細める。
 この屏風はさる歌舞伎役者から贈られた品にて、この男の幽霊もまた役者らしい。
 好いた相手と心中をはかるも失敗し、亡くなったのは自分ひとり。
 それをさみしいと、うらめしや。
 ちなみにそのお相手はどこぞの大身の武家の若侍という裏設定があるんだとか。
 いわゆるBLである。

「サムライと坊主の衆道なんて、当時は当たり前だったからねえ」

 時代劇ではおなじみの、あの戦国武将やら剣豪ら偉人たちも、そっちの道に精を出していたと聞かされて、驚くミヨちゃん。
 するとここでおもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「幽霊画、じつは技術的に最高難易度」

 応挙、北斎、歌麿などなど。名立たる絵師たちが、
 その技巧を競ったのがこのジャンル。エロ、グロ、艶、雅。
 現代作家も挑戦しており悪くないけど、何かがちがう。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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