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821 にくじる

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 毎月二十九日は肉の日。
 そういううたい文句にて、特別セールをしているハンバーガー屋がある。
 なんでもその日は、ハンバーガーに挟まれる肉の量がとんでもないことになるらしい。
 高校生の次兄からそのウワサを聞いていたミヨちゃん。ものは試しと仲良しのヒニクちゃんを誘って行ってみることにした。
 そして幼女たちはすぐに後悔する。

「デカッ、重っ、あと油がすごい」

 ウワサは本当であった。
 というか、もう、完全に悪ふざけの域に片足を突っ込んでいた。
 通常、肉のパテが二枚はさまったハンバーガー。
 厚いパテなので、これだけでもかなりのボリュームがある。
 それが四枚に増量。希望すれば六枚にまで同じ価格でいけるというからおどろき。
 でも肉汁たっぷりのパテが増えれば増えるほどに、もう、びちゃびちゃ。
 パテの分だけ背も高くなっており、三百五十ミリリットルのペットボトルぐらいもある。
 手軽に食べられるファーストフード。
 その利点をことごとく踏みつぶすがごとき所業。
 包装紙を開いたミヨちゃんたちは、即座に「これは危険だ」と判断。
 準備を整えずにチャレンジすれば、きっと大惨事が待っている。
 手や口元がべちょべちょになるぐらいならばまだいい。最悪なのは服をよごしてしまうこと。服に肉汁の染みとか、乙女としては、それだけは断じて容認できない。あと人前でこれにかぶりつく勇気もない。
 そこで丹念に包みなおして、家に持ち帰ることにした。

 戦略的撤退をし、ミヨちゃんの家にやってきた二人。
 そして二度目の後悔をする。
 ハンバーガーはチーズとソースと油と湿気で、混然一体となり、しんなりベタベタ。
 セットで頼んだポテトも、すっかりくたびれて、しょんぼりしており、食べたらネチネチしている。
 シェイクにいたっては、もう……。
 とりあえずポテトはトースターに放り込んで、シェイクは冷凍庫でしばし安置して様子を見ることにした二人。問題はバーガーである。
 いろいろ考えてみたけれども、時間が経つほどに、より状況が悪化していくので、もう、腹をくくって、このままかぶりつくことにしたミヨちゃんたち。
 ここは家なのでお皿とかフォークが用意できるし、手が汚れてもすぐに洗える。なにより他人の目を気にしなくていい。

 で、ようやく実食。
 ぶっちゃけ味は悪くなかった。
 塩コショウがきいた肉は、とっても肉肉しておりおいしかった。
 チェーン展開している大手には出せない豪快な味。
 でも……。

「いっぺん食べたら、もういいかな」

 身もふたもないミヨちゃんの感想。
 あまりにもインパクトが強く、ボリュームがあり、コストパフォーマンスも高い。
 お値段以上の満足と満腹。
 けれども、それゆえに「また食べたい」という気持ちにならない。
 なぜなら心の底から満たされてしまったから。
 するといち早く完食していたヒニクちゃんが、油でテカテカした口元をテッシュで拭きながらぼそり。

「世の中、少し足りないぐらいがちょうどいい」

 目立ってナンボの精神は昔からあったけれども、
 近頃、それがちょっと顕著になっている気がする。
 それを助長するがごとき世間の風潮も、なんだかなぁ。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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