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816 せみ

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 夏の朝といえば、ホーホーと鳴くハトの声と、ミンミンとやかましいセミの声ではじまるもの。
 あとは先夜につけていたエアコンのタイマーが切れたことによって、もわんとあがる室内の熱気にて、「うー、あついよぉ」という気だるい目覚め。
 だいたいセットになってる夏の朝の三連コンボ。
 まぁ、いまさならがら、今朝はとくにセミがやかましい。
 その原因は自室の窓の網戸に、いつのまにやらセミがはりついていたから。
 窓を開けて、網戸越しにセミの腹をデコピンでチョンとはじく。
 セミを追っ払いつつ、ふとミヨちゃんは思った。

「あれ? そういえばセミって、なんで鳴いているの?」

 で、さっそく次兄の部屋にてタンスの肥やしと化している図鑑を拝借。
 ちょいと調べてみた。

「ふむふむ。メスを引き寄せるために鳴いているのか。そしてメスは鳴かないと。へー」

 このとき得た知識を、遊んでいる途中に仲良しのヒニクちゃんに披露したミヨちゃん。
 セミについてあれこれと知ったかぶり。
 かの昆虫学の大家ファーブル先生が、セミの間近で大砲をドーンと鳴らしても、セミは鳴くことをヤメなかった話や、セミの中には一か所でひたすら鳴き続けるモノと動き回るモノがいること。短いものだと一年、長いのだと十七年も地中で過ごすセミもいる。 
 なんぞと、つらつらセミうんちくを語ったミヨちゃん。
 しみじみとこんな感想を口にする。

「そう考えたら、セミの声も切ないもんだよねえ。だって翻訳したら『誰かボクのお嫁さんになって下さい』なんだもの。あれだけ苦労して、鳴いて鳴いて鳴きまくって……。なのに選択肢はメスにゆだねられるんだから」

 種の保存。生命を次世代につなぐことの大切さとたいへんさを学びつつ、「セミに比べたら人間はよっぽど楽だよ」とひとりごちているミヨちゃん。
 はたしてたまに道端にてひっくり返っているセミは、満願を成就したのであろうか?
 するとここでおもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「それすらをも食する人の業の深さときたら」

 羽をむしって焼く、目玉や手足や羽をとって蒸す、
 茹でて燻製、油でカラっと揚げる、などなど。
 ちなみに抜け殻は漢方薬のもとになっている。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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