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793 ねつ
しおりを挟むある二時間サスペンスドラマの冒頭シーン。
姉からかかってきた不可解な内容の電話。
不審に感じた妹はすぐに姉のマンションへと向かう。
玄関のドアを叩き、インターフォンを鳴らすも返事はない。
合鍵を使って入り、姉の姿を探すももぬけの殻。
テーブルの上には一枚のメモ書き。
『どうか捜さないでください』
そして妹が姉の行方を捜すうちに、次々と事態は思わぬ方向へと転がっていく。
という感じのお話。
これをぼんやり視聴しながら、ミヨちゃんは思った。
「いや、捜さないでくださいって……。むしろ捜せと言ってるようなものでは?」
物語の展開上、施された舞台装置。
必要だけど、えてして強引に話を動かすために、少々ムリクリなものも無きにしもあらず。
やたらと手掛かりを見落とす鑑識とか。
やたらとお節介な町内会長さんとか。
やたらと首を突っ込む主婦とか。
チープといえばチープ。しかしお約束といえばお約束にて、そんなことは制作陣も重々承知。これを突っ込むほうが野暮というもの。
でも同じお約束満載でも、ドラマとちがって映画になると、わりと作り込みがしっかりしている。
各種伏線の回収とか、キーアイテムのちりばめかたとか、見せ方の演出とか。
予算の桁と製作期間の桁がちがうだけのことはある。
しかしそれを活かすも殺すも視聴者側の姿勢に頼ることになるのが、ちと悲しい。
これはヤマダ家にて、家族でレンタルしてきた映画を見ていたときのこと。
子どもたちは視聴する前に、お菓子だのジュースだのを用意して、トイレもすませてきちんとスタンバイ。
なのに大人たちはわりと流し見スタイル。
お父さんは新聞と画面を交互にちらちら。要所要所を抑えて物語の概要を把握。
おばあちゃんはぼんやり画面を眺めているけれども、ときおりトイレに席を立つ。で、しばらく帰ってこない。
困ったのがお母さん。完全に家事の片手間。あれやこれやと用事を思いつくたびに席を立ってはうろうろ。
これではちっとも落ち着いて映画に集中できないので、高校生の次男が文句をいったら、「だったらあんたが洗濯物をたたんでくれるの? 夕飯の準備をしてくれるの?」と反撃を喰らって撃沈。
そう。家族を支えるお母さんはとっても忙しいのだ。
でもって、うかつに触れたら藪をつついてヘビが……となりそう。
男性陣はあっさり口をつぐみ、以後、何も言わなくなった。
まぁ、こんな感じて映画の視聴会は終了。
そして「わりと面白かった」というミヨちゃんや男性陣に対して、お母さんが発したのは「うーん、なんだかよくわからなかったかも」という感想である。
この話をいつものごとく仲良しのヒニクちゃんとの下校中に披露したミヨちゃん。
「だろうね、って思った。あとこれはあとでヒロ兄ちゃんに聞いたんだけど、女の人ってわりと『なんだかよくわかんない』って感想が多いんだってさ」
ちなみにヒロ兄とはミヨちゃんのところの長兄で大学院生のことである。
これを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「温度差はいつもぼくらを悩ませる」
制作陣は作品に惜しみない情熱と労力を注ぎ込む。
けれども視聴者にとっては、しょせん娯楽のひとつ。
ただ無為に消費されるだけの、なんと虚しいことか。
そう考えると最後のスタッフロールがなにやら切ない。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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