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784 めぐる

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 さいきん学区内にある神社に、ふだんは見かけない外部の人の姿がちらほら。
 とりたてて由緒があるわけでも、ご利益があるわけでもない。パワースポットというわけでもなく、歴史的背景もなければ過去に大きな事件が起きたこともない。
 小さな社に、おちついた境内、ちょっとコケむして雰囲気のある石の鳥居。
 ぶちゃけ子どもたちとノラネコやハトたちのたまり場になっているような場所。
 そこをわざわざ他所から足を運んで訪問する?
 しかも記念撮影なんかもしている。
 ミヨちゃんも何度か見かけて、ずっとふしぎがっていた。
 で、その理由がこの度判明する。
 その情報をもたらしたのは、アイちゃん。
 彼女の家はファッション一家にて、高校生のお姉さんは読者モデルをしている。キレイだけれども、とってもシスコンなのがたまに傷。
 たまさかアイちゃんが神社の現象を口にしたのを耳にしたお姉さんが「あー、たぶん、アレのせいかも」と口にしたのが、さるインターネット小説のこと。

 お話の大筋はこう。
 若くして息子を産んだ母親は、苦労しつつもシングルマザーとして奮闘する。
 というのも父親は母親のお腹が大きいうちに、事故で他界。
 しかも二人は駆け落ち同然にて、誰にも頼れない状況下で、母親はそれはそれはがんばった。
 息子もそんな母親を見て育ったから、とってもいい子。というか内面天使で外見も絶世の天使。
 やがて息子が中学生になる頃。
 母親に再婚話が持ち上がる。
 相手は売れっ子のイケメン弁護士。
 とっても紳士で、母親のことを大切にしてくれており、息子もこの人ならばと信じた。
 だがしかし、新しい父親が本当に欲していたのは、じつは……。
 そこから始まる愛と憎しみが渦巻く背徳の物語。
 ちなみによいこは見ちゃダメな作品。

「アマチュアの作家さんがインターネットで公開している小説があってね。どうやらその舞台になったのがあの神社らしいって、噂が流れているのよ。それでファンの人たちが、えーと『聖地巡礼』だったかな。それをしているんだって」

 アイちゃんから聖地巡礼の話を聞いて、ミヨちゃんはフムフム。さもありなんと納得。
 なぜならアニメやマンガとかでも、ときおりそんな現象が発生するとニュースで見知っていたからである。
 おばあちゃん子のミヨちゃんは、よく祖母といっしょになって夕方のニュースをチェックしているから、意外に世間の情報に詳しいのだ。

「近頃は、ツイッターとかSNS発信で人気がでる作品も多いらしいから、ありえるか。でもインターネットの小説かぁ……。いや、まさか、ねえ。だって書いてる作品はファンタジーだって言っていたし」

 首をかしげるミヨちゃん。
 じつは近所の知り合いに小説を書いているというお姉さんがいる。
 たまに「もういらなくなったから」と参考資料に使ったというアニメ雑誌やマンガなんかを、どっさりくれるとってもいい人。
 するとミヨちゃんのつぶやきを耳にしたアイちゃんが言った。

「恋愛物もある意味ファンタジーじゃないの? なんにしてもファンに巡礼させるとか、ちょっとスゴイわよね」

 いずれこの町からも有名な作家さんが誕生するかもしれない。興奮するアイちゃんとミヨちゃん。
 二人のこのやりとりをそばでじっと聞いていたヒニクちゃんが、おもむろに口を開いた。

「聖地巡礼。別名オタクツーリズム」

 その経済効果は百億円以上なんだとか。
 観光客の誘致もうん十万人以上とすさまじい。
 近代創作による副産物ですらが、これだもの。
 そりゃあ中東の聖地問題が解決するわけがない。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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