778 / 1,003
784 めぐる
しおりを挟むさいきん学区内にある神社に、ふだんは見かけない外部の人の姿がちらほら。
とりたてて由緒があるわけでも、ご利益があるわけでもない。パワースポットというわけでもなく、歴史的背景もなければ過去に大きな事件が起きたこともない。
小さな社に、おちついた境内、ちょっとコケむして雰囲気のある石の鳥居。
ぶちゃけ子どもたちとノラネコやハトたちのたまり場になっているような場所。
そこをわざわざ他所から足を運んで訪問する?
しかも記念撮影なんかもしている。
ミヨちゃんも何度か見かけて、ずっとふしぎがっていた。
で、その理由がこの度判明する。
その情報をもたらしたのは、アイちゃん。
彼女の家はファッション一家にて、高校生のお姉さんは読者モデルをしている。キレイだけれども、とってもシスコンなのがたまに傷。
たまさかアイちゃんが神社の現象を口にしたのを耳にしたお姉さんが「あー、たぶん、アレのせいかも」と口にしたのが、さるインターネット小説のこと。
お話の大筋はこう。
若くして息子を産んだ母親は、苦労しつつもシングルマザーとして奮闘する。
というのも父親は母親のお腹が大きいうちに、事故で他界。
しかも二人は駆け落ち同然にて、誰にも頼れない状況下で、母親はそれはそれはがんばった。
息子もそんな母親を見て育ったから、とってもいい子。というか内面天使で外見も絶世の天使。
やがて息子が中学生になる頃。
母親に再婚話が持ち上がる。
相手は売れっ子のイケメン弁護士。
とっても紳士で、母親のことを大切にしてくれており、息子もこの人ならばと信じた。
だがしかし、新しい父親が本当に欲していたのは、じつは……。
そこから始まる愛と憎しみが渦巻く背徳の物語。
ちなみによいこは見ちゃダメな作品。
「アマチュアの作家さんがインターネットで公開している小説があってね。どうやらその舞台になったのがあの神社らしいって、噂が流れているのよ。それでファンの人たちが、えーと『聖地巡礼』だったかな。それをしているんだって」
アイちゃんから聖地巡礼の話を聞いて、ミヨちゃんはフムフム。さもありなんと納得。
なぜならアニメやマンガとかでも、ときおりそんな現象が発生するとニュースで見知っていたからである。
おばあちゃん子のミヨちゃんは、よく祖母といっしょになって夕方のニュースをチェックしているから、意外に世間の情報に詳しいのだ。
「近頃は、ツイッターとかSNS発信で人気がでる作品も多いらしいから、ありえるか。でもインターネットの小説かぁ……。いや、まさか、ねえ。だって書いてる作品はファンタジーだって言っていたし」
首をかしげるミヨちゃん。
じつは近所の知り合いに小説を書いているというお姉さんがいる。
たまに「もういらなくなったから」と参考資料に使ったというアニメ雑誌やマンガなんかを、どっさりくれるとってもいい人。
するとミヨちゃんのつぶやきを耳にしたアイちゃんが言った。
「恋愛物もある意味ファンタジーじゃないの? なんにしてもファンに巡礼させるとか、ちょっとスゴイわよね」
いずれこの町からも有名な作家さんが誕生するかもしれない。興奮するアイちゃんとミヨちゃん。
二人のこのやりとりをそばでじっと聞いていたヒニクちゃんが、おもむろに口を開いた。
「聖地巡礼。別名オタクツーリズム」
その経済効果は百億円以上なんだとか。
観光客の誘致もうん十万人以上とすさまじい。
近代創作による副産物ですらが、これだもの。
そりゃあ中東の聖地問題が解決するわけがない。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる