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775 そうせい
しおりを挟む趣味趣向というものは、ある時期、偏りをみせるもの。
やたらと「オレ強えぇ系」や「異世界ハーレム系」の小説を好んでいたと思ったら、ふいに本格ミステリーに目覚めたり、壮大なスペースオペラに傾倒したり、ホラーばっかり読み耽ったり。
誰しも自分の中で流行というものを持ち合わせている。
ミヨちゃんもまたしかり。
少女マンガを愛読する幼女は、どたばた系のラブコメを好むものの、ふいにドロドロの愛憎劇の三角関係が展開される作品や、一転して純愛路線を貫く作風を好んだりする時期がある。
でも、ある程度まで突き詰めると、やがて「あれ? 読むものがない。読みたいと思える作品がない」と気づく。
当然だ。
ひたすらむさぼり、消費を続けていれば、いずれ読むペースが生産力を上回るのは必定。
なにせ創作活動には膨大な労力と時間がかかるのだから。
たった十五分ほどで読破してしまえるマンガの単行本。
それを描きあげて出版されるまでに、どれほどの人の手を経たことか。
小説にしたってそう。
単行本一冊分ならば、だいたい十二万文字前後。これを仕上げようとすれば数か月、モノによっては年単位。さらにシリーズ化とかされていたら、もううん十年単位。
でも読むだけならば一日あれば終わっちゃう。
熟達した者ならば数時間で速読することであろう。
料理と同じで調理には時間がかかるのに、食べるのは一瞬。
スープを煮込むのに数日かけたラーメンも、食べるのは十分とかからない。カレーなんてものの五分ぐらいだし。
そんなわけで、ある日、ある時、ある瞬間。
ふいに訪れる消費の切れ間。
はたと困ったミヨちゃん。「どうしよう……」
ここで「自分も」と創作に傾く者と、「他に発掘するか」と傾く者にわかれる。
ミヨちゃんが選んだのは後者。
「よし、スコップするぞーっ!」
ちなみにスコップとは、ネットスラングにて隠れた名作なんぞを発掘する行為に相当する言葉。
娯楽として垂れ流され消費される作品群の中には、運やタイミング、時勢、流行、いろんなことが重なって、陽の目を見なかった作品が多い。
また自分と世間との好みの差もある。面白いと感じるのは人それぞれ。
だからどこに自分好みの作品が埋もれているかわからない。
いい機会だから、新しい作家を探そうと考えたミヨちゃん。仲良しのヒニクちゃんを誘ってさっそく書店やら古本屋やらをめぐる。
で、あれこれを見た結果、「これは!」という作家さんを見つけるのだけれども……。
「くっ、よもやすでに亡くなっているだなんて。なんてこったい」
絵はもろに好み。
ゴシックホラーテイストの様式美もステキ。
物語もおもわずうなるモノばかり。
だというのに若くして早逝してしまった才能。
生まれてくるはずであった傑作たちに想いを馳せて、くやしがるミヨちゃん。
それを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
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未完のことをエターナル、略してエタという。
エタを量産してヒット作を模索する作家がいる一方で、
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創作に正解はないというけれど。うーん。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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