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 世界中で銅像が倒されている。
 歴史的背景やら、時代の変遷による価値観の変化。
 かつては良しとされていたものが、のちのちの世になってダメとなる。
 特に気にもとめていなかったことが、無性に許せなくなる。
 モデルとなった人物が、じつは実態がまるでちがってとても尊敬できない奴だと判明して、相応しくないと判断されたり……。
 まぁ、だからって引き倒して橋の上から河にドボンとかは、さすがにやりすぎ。
 というか河にゴミを捨てたらダメだって、教わらなかったのかしらん。
 などと、海外のニュースを見ながらミヨちゃんは思った。
 あと大きな銅像を適当に倒すのは危ない。
 うっかり巻き込まれて下敷きになったらケガではすまないというのに。

 負の歴史は負の歴史としてきちんと保存検証すべきだ!
 間違った歴史なんぞ、不快にて破棄してしまえ!
 どちらの感情も理解できるけれども、いろいろ経験をしてきたことを踏まえると、一時の感情に流されて行動すると、だいたいロクなことにならない。
 それはあらゆる国が経験していること。
 かつて廃仏毀釈なる運動が横行して、貴重な仏像や建物を失うという悲劇があった。
 ある国では信仰上の理由から、人類史に残る貴重な遺跡が破壊されるという暴挙がなされた。
 破壊するのは簡単だ。
 捨てるのも簡単だ。
 否定するはもっと簡単だ。
 でも、一度、それをやってしまったら二度とは元に戻らない。
 そこでぷつりと歴史の流れが途切れてしまう。
 あっという間に風化して、なかったことにされてしまう。
 そしてきっとまた同じあやまちをくり返すことに……。

「っていうか、銅像、多くね?」

 何やら人類史の重要なポイントに触れそうで、そこをスルーしてミヨちゃんが興味を示したのは銅像の数の方。
 公園、橋の上、建物の軒下。
 海外ではそこかしこ、街のいたるところに銅像が建っている。
 自分の住んでいる地域になんて、学校にあるのと駅前に建っている「誰だよ、これ」という知名度ゼロのやつぐらいしかないというのに。

「しかも造りがいいんだよねえ。なんていうか、風格がちがう?」

 モデルそっくりに作る。
 もしくは少しぐらい盛るけれども、その盛り方が控えめ。
 これもお国柄なのかしらんと、首をかしげるミヨちゃん。

「うちもどうせなら正宗とか信玄がよかった。もしくはハチ公でも可」

 名物もなく、押しメンもいない地方都市ならではの悩みをぼそりと口にしたミヨちゃん。
 それを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「皇居外苑にある楠木正成像は、かなりかっこいい」

 武将の銅像は騎馬に乗っているのが良作揃い。
 でも若宮八幡宮内にある長曾我部元親は、べつ。
 長槍を手にした立ち姿が、抜群に凛々しい。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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