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742 じゃん

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 小学校からほど近いところにある団地。
 寸分たがわぬ建物が、ずらりと並ぶ姿はドミノのよう。
 五階建てにて、エレベーターはなし。
 最近は外部に後付けで実装されはじめているけれども、全体からするとまだほんのひと握り。
 そんなコンクリート建築群の中のひと棟、とある部屋が、チエミちゃんの家族が生活している場所。

 団地と一戸建て住宅とは、似て非なる住環境。
 なんといってもそのちがいは、段差の有無。
 平屋の一戸建てならばともかく、ほとんどは二階建てかそれ以上。だから家の中には階段があり、住んでいる者たちは日になんどもこれを上り下りする。
 これがけっこうな運動になるからあなどれない。
 対する団地は上の階だと、外部に出るのにもちろん階段を利用するからたいへんだけれども、いったん家のドアをくぐると、そこから先はフラットな空間が待っている。
 そんな大げさな。
 と、思われるかもしれない。
 たいしてちがいなんてないでしょう。
 と、思われるかもしれない。
 けれどもそんなことはない。
 例えば、毎日ヒンズースクワットをしている人間と、そうでない人間との脚力には明確な差が生まれる。
 山間部の田舎に住む人間と、街中に住む人間との、体力にも明確なる差がある。
 人間のカラダは、子どもとて軽くても、二リットルのペットボトル箱買いよりも、ずんと重い。そんなカラダを支えているのが足であり、日常生活は重しを担いでトレーニングをしているような状況。

「だったら、団地の上の階に住んでる人は、みんなスリムなのかといえば、そうでもないんだけどねえ……、っと、ミヨちゃんのソレ、ポン! うし、あがり」
「なーっ!」

 大人たちが大好きな卓上遊戯マージャン。
 それを子ども用に改良されたのが、現在、ミヨちゃんたちが遊んでいるもの。
 牌をガチャガチャする姿こそは、大人たちのソレにそっくりだけれども、描かれてある絵柄がアニメ調のかわいらしいものにて、トランプのように絵柄を集めて、それらの組み合わせにて勝敗を決するゲーム。
 チエミちゃんが親戚のお姉さんからお古をもらったというので、彼女の家にてミヨちゃんとヒニクちゃんがお邪魔して遊興に耽っているところ。
 目下、成績はぶっちぎりにてチエミちゃんのリード。お正月なんかに親戚が集まると、けっこうな頻度にて遊んでいるというだけあって慣れており、上手い。巧みな牌さばきにて、場の流れを引き寄せている。
 少し点数を離されて第二位にいるのがヒニクちゃん。
 ミヨちゃんは、もともとドベだったところに、たったいまぶっちぎりの最下位へと転落したところ。

 あがりを献上したミヨちゃん。手持ちのアメ玉をひとつ、チエミちゃんへと移動するのをうらめしげに見送る。
 賭けごとはあまりよろしくない。
 けれども、何かを賭けた方がゲームは盛り上がる。
 さりとて自分たちは小学二年生の幼女なので、お金なんてもってのほか!
 で、アメ玉を持ち寄っての、なんちゃってギャンブラー気分を楽しんでいる。

「っていうかさぁ。大人たちのマージャンのことが、たまにニュースになってるけど、そもそも賭けないでやってる人なんているの?」とミヨちゃん。

 賭博法違反とかで、たまにとっ捕まる大人たち。
 昔はしょっちゅうあって、よく有名人がやり玉に挙がっていたという時代があったとか。
 そして現在であるが、基本的にはなんら状況はかわっていない。

「大なり小なりやってるでしょう? なにをいまさら……」

 というのがミヨちゃんの主張。

「やってるやってる。だって、でなければいい歳をした大人たちが、わざわざ仕事終わりに疲れているのもおかまいなしに、集まって夢中になるわけないよ」

 チエミちゃんも同意し、ケラケラ笑いながら、戦利品のひとつをポイと自分の口に放り込んで、もごもごさせた。
 そんな二人の会話を聞き流しつつ、牌をちゃっちゃと並べて積み直していたヒニクちゃん。おもむろに口を開いた。

「本場でも賭けるのは違法。だがしかし」

 本場ゆえに路地やら、公園やらで集まっては楽しんでいる。
 そんな光景が日常茶飯事にて、生活風習みたいなもの。
 あくまで少額だけど、たぶん賭けてない卓を探す方がたいへん。
 そもそも他のギャンブルが世に溢れ、大手ふっているというのに、
 これだけ規制する意味が本当にあるのか。首をかしげるところ。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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