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729 てーぜ

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 前から欲しかったけれども、ついつい買いそびれているうちに、すっかり存在そのものを忘れちゃって……。
 ふと立ち寄ったお店にて、その目当ての品を発見!
 値段をみたらとってもお手頃。
 けど、すでに自分の中から熱が失われており、それほど欲しくもない。

「どうすっかなぁ」

 悩んだ末に、やっぱりスルー。
 この値段ならいつでも買えるし、いそいで買わなくてもいいかな。
 そう考えたミヨちゃんは、その場では商品を棚に戻す。
 で、また別の日のこと。
 その商品を今度はちがうお店で発見する。
 二度目の遭遇。
 これはもはや運命?
 神がわたしに買えと言っているのかしらん。
 すっかりその気になったミヨちゃん。「よし、買うか」と品を手にとったものの、値札をみてピクリ。

「うっ、ちょっと高い」

 その差額は百円ちょっと。
 たったそれぐらいと考えるか、されどそれぐらいと考えるか。
 もしも百円でジュースが買える自動販売機と、そうではない通常の自動販売機が横並びにあったら、たいていの人は百円方をまずチェックするはず。
 節約とかケチとかい話ではない。
 たんにムカつくからだ。同じ品を買うならば、賢く買いたい。
 財力にあかせて値段を気にせず購入するのは、うなるほどお金を持っており、湯水のごとく使ったところで屁でもないお大臣さまのみ。
 大多数の人間は一円でも安い方がうれしいもの。
 ましてや経済事情が厳しい小学二年生の幼女にとっては、これは切実な問題。
 だから、ガマンした。
 最初に見つけたところで買おうと決めた。
 すぐにその足で出かければよかったのだけれども、あいにくと用事があって……。

 ってな具合にズルズルとまた時間をまたぐ。
 熱したり冷めたりしつつ、購買意欲が波打ち、ついにはほとんど忘れてしまう。
 が、何かのひょうしにポコンと思い出す。
 ミヨちゃんのときは、お昼寝をしているときであった。
 夢の中に例の品が登場し、ハッとしたところで目を覚ましたミヨちゃん。

「よし、いまから買いに行こう」とムクリと起きた。

 だがしかし……。
 過ぎ去りし時間は戻らない。
 運命は残酷なるテーゼ。
 ちなみにテーゼとは定立や立てらえた命題のこと。「日本人なら米を食え!」みたい肯定的な主張。
 自分にとってかけがえのない存在だと気づくのは、たいていが失くしてから。
 いささか遅きに失したがゆえに、再会はかなわない。
 二つの運命はすれ違い、何処かへと消えてしまった。

「でさぁ、二軒目にはブツがあるわけよ。でも一軒目で見つけたときよりもちょーっと高いんだよねえ。べつに手が届かない金額じゃあないんだけど、なんだかなぁーって」

 どうしても欲しければ、すぐにそちらで手に入れればいい。
 けれどもその決心がどうにもつかないとミヨちゃん。
 ヒニクちゃんに電話をして「どうしたらいいのかな」と相談をもちかける。
 これを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「物事には時期や瞬間が存在する」

 タイミングが合わない。タイミングを外す。
 手に入らないとかえって欲しくなるのが人の心。
 でも、そうやって手にいれた場合。
 たいていそこで満足しちゃうのよね。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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