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728 さらち
しおりを挟む四月や五月は、わりと世間の動きが活発になるもの。
社会がぐるぐる回るから、みんな忙しい。
公私にわたっていろいろあるから、気がつけば早や五月も半ば……。
「あー、なんだかなんだで、もう一年も半分終わりかぁ。あー、梅雨うっとうしいなぁ」
などということに。
そんな時期を目前に控えたある日の午後。
ひさしぶりにちょっと遠出をして、郊外にまで足を運んだミヨちゃんとヒニクちゃんの二人の幼女。
ネコスポットのパトロールが主な目的であったのだけれども、その途中で見かけたのが空き地。
ミヨちゃんの記憶が確かならば、つい先月まではここにコンビニエンスストアが営業していたはず。
駐車場も広く、立地に恵まれ、国道にも面しているから、けっこう繁盛していた。
なのに無くなっている。
閉店どころか建物そのものが消えており、駐車場のアスファルトまでえぐられて、完全な更地状態。
「もうかってると思ったんだけどねえ。それとも人手不足が原因かしらん」
ミヨちゃんは首をかしげる。
近頃、どこもかしこも人手が足りないらしい。
かなり深刻にて、外国人とかも積極的に雇っているし、時給をあげたり、待遇を良くしたりと経営者側はがんばっている。
でも集まらない。おかげで現場にシワ寄せがいって悪戦苦闘にて疲労困憊。
更に人離れが加速しちゃうなんて事態も……。
政治家のえらい人は言っていた。
「現政権下にて、経済は好調だ。景気は順調に推移している」
でも、実際にはお店は潰れてしまっている。
もっとも本当に経営が苦しくなって潰れたのか、何か事情があって自主的に廃業したのかは不明だけれども。
なんにせよ、つい先頃まであったモノが無くなるというのは、幼女にとってはそれなりにショッキングな光景であった。
ミヨちゃんとヒニクちゃんは、しばし国道沿いの歩道をテクテク歩く。
しばらく進むと見えてきたのはネコスポットのひとつ。
ときおり付近のネコたちが集会をしているバスロータリー跡。路線変更によって、使用されることがなくなった場所を放置しているうちに、いつしかネコたちが集まるようになっていた。
あいにくとネコの姿は見られなかったものの、場所はそのままにて特に変わった様子もなく、ホッと胸を撫でおろすミヨちゃん。
その足でさらに進むこと十分ほど。
そろそろ足がつかれてきたから休憩しようか。
という段になって通りがかったのが、ひときわ大きな空き地の前。
野球場ほどもあって、元は大型家電量販店があった場所。
一事は飛ぶ鳥を落とす勢いにて、全国津々浦々へと出店ラッシュをしたものの、経営者が死去したとたんに内紛が勃発。あれよあれよという間に傾いて、一転して閉店ラッシュ。
気がつけばほぼ死に体になっていた。
強力なリーダーが率いる組織に多いパターンにて、頭がいなくなったダメになるケースは意外にも多いそう。特に一代にて大きくなった会社とかによくあるらしい。
「上も下も人がいないんだねえ。どうすりゃいいのかな?」
人員の空洞化によって、モロくなっている社会構造を憂いるミヨちゃん。「まるでこつそそうしょうだよ」と嘆く。
それを受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「歳を経てダメになるのは、人も物も社会も同じ」
世界一の高級車だって、世界一安い車だって、いずれはダメになる。
人間のカラダだって、どれだけ気をつけても、あちこちガタがくる。
国や社会だけがどうして無事でいられるのだろう。悲しいけどね。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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