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727 つきのおんな

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 奇書というか、奇妙な本というか。
 大昔の文献を、現代語訳して再編集されたもの。
 時代変われば常識かわる。
 時代ちがえば知識や認識もかわる。

 鬼のルーツは、遠い昔に船が難破して漂着した外国人だという。
 肌の色がちがう。目の色がちがう。カラダの大きさがちがう。言葉は何をしゃべっているのかわからない。そしてやたらと毛むくじゃらでムキムキ。
 仏教では禁じられており、あんまり大っぴらに食べてはいけないはずの、お肉もむしゃむしゃ食べる。
 それはそうだろう。
 育った環境と食文化がちがうんだもの。
 ところかわれば習慣も考え方もごっそりかわる。
 あちらで食べる物を、こちらでは見向きもしなかったり、むこうでは珍重されている品が、他方ではまるで価値がなかったり……。
 タコとかマツタケとか、ナマコ、コンブ、ゴボウ、コンニャク、昆虫類などなど。
 ぱっと思いつくだけでもけっこうあるある。

 現代のように多種多様な人たちが世界にはいて、その数だけ文化やモノの考え方があることをよく知っていても、なおも失くならない誤解や騒動や争い。
 ましてや知識は微々たるものにて、文字の読み書きや計算もままならぬ、日々を生き抜くので精一杯の環境下であった古代ならば、その比ではなかったことであろう。ちがう何かを受け入れる余裕なんてほぼほぼ皆無。
 でも、当時の人たちは人たちなりに精一杯にがんばっていた。
 だからそれを悪しざまに言い、これを上から目線にてあげつらうつもりはない。
 けれども、やっぱりおもしろかったりもする。
 どうしてこんなことを信じていたの? と思わず噴き出しちゃうこともままある。
 この奇妙な本はそういった時代間、世代間、世界間における、様々な齟齬を浮き彫りにしたもの。

 この本を家の書棚の奥でみつけたのがミヨちゃん。
 父母に祖母、二人の兄にも確認したが誰も知らないという。
 ということは、おそらくは亡くなった祖父の遺品なのだろう。
 興味本位でぱらぱらページをめくってみたら、イラストメインで文字少なめ。
 小学二年生の幼女でも楽しめそう。
 そこでこの本を持ち出し、仲良しのヒニクちゃんを誘って河川敷へと出かけた。

 ほどよく吹き抜ける風と、心地よい陽光を受けつつ、二人して本をながめる。
 開かれてあるページは「月の女」というものが記載されてあった。
 なんでもタマゴを産む女性がいて、そのタマゴが孵ると巨人になるそうな。
 当時の著名な学者が、その著作においてマジメに論じてあったそう。
 これを読んで「へー」とミヨちゃん。

「ムーン・ウーマンか、ちょっとかっこいいかも。でもどうして巨人? というかあっちって小人とかもスキだよね? おとぎ話とかにしょっちゅう出てくるもの」

 神話やおとぎ話、寓話なんかにもまた土地柄や時代性が色濃く出るもの。
 ミヨちゃんの疑問を受けて、しばし考え込んでいたヒニクちゃん。おもむろに口を開いた。

「正解は歴史だけが知っている」

 そんなバカな。なにを愚かなことを。さすがにソレは……。
 世に溢れる数多の選択と、その果ての結果の残骸。
 結局、本当に正しかったのか、あやまちであったのか。
 それを冷静に判断できるのは、後世の人たちだけなのよね。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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