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725 くるい
しおりを挟むDVDプレーヤーが壊れた。
ここのところちょっと酷使しすぎていた。どこからでも好みのシーンが楽しめる気軽さゆえに、けっこうリモコンをガシガシして、荒く使っていたことは否めない。
どうやらレンズ回りがへたってしまったらしい。
おかげでアニメが視聴できない。
パソコンならばドライブが付いているので視れるのだけれども、あいにくとミヨちゃんは自分用のパソコンを持っていない。
大学院生の長兄と高校生の次兄は持っている。
だから借りれば視られる。
でもそれはしない。
小学二年生の身ながらもミヨちゃんは知っている。
男のスマートフォンとパソコンの中身なんて、女が見るもんじゃないということを。
それは女のSNSを男がのぞくのと同じぐらいの愚行。
世の中、知らなくていいこと、見なくていいものがある。
その方が幸せに生きられる。
好奇心はネコをも殺すのである。
てなわけでミヨちゃんが頼ったのは仲良しのヒニクちゃん。
快く要請に応じてくれた彼女は、ひさしぶりに自宅へと招いてくれた。
すっかりお忘れの方もいるかもしれないが、ヒニクちゃんの本名はコヒニクミコ。
一日百文字前後の発言で生活する省エネ幼女にて、ピリリとスパイシーなコメントから、ついたあだ名がヒニクちゃん。
自宅は郊外の一戸建て。裏庭にはささやかながらも畑を持っており、ヒニクちゃんは家庭菜園を趣味としている渋い小学二年生。
父コヒニイサムは人間サイボーグの異名を持つ巨漢にて、職務質問の常連だけれどもマジメな家族想いのサラリーマン。
母コヒニサユリは黒が似合うロングの色白美人だけど、雰囲気がホラーなアレっぽい人にて、売れっ子の人形作家。
これにペットのゾウガメのポンタにて構成されたコヒニ家。
自宅兼工房となっているヒニクちゃんの家の中は、わりと整然としている。
どれくらい整然としているのかというと、お掃除ロボットが自在に走り回れるぐらいの整然さ。
その理由は、ポンタの歩行の妨げになることと、あまりごちゃごちゃしていると危ないから。
母が使用する道具や素材の中には、角が尖っていたりするものもあるので、我が子に対する配慮である。
が、そんな環境で育ったヒニクちゃんもまた、この影響を多大に受けてスクスク育つ。
いまでは華奢なお人形さんのような見た目とは裏腹に、中身はすっかりさっぱりした性格に。
おかげで彼女の部屋をたずねた同級生たちが「どこの男前の部屋なのよ!」と思わずツッコむぐらいにさっぱり。およそ女の子の部屋らしくないインテリア。
そんな自室にミヨちゃんを招き入れたヒニクちゃん。
さっそく二人してDVDを視聴する。
それはかつて数多の若者たちを熱狂させ、その道へと引きずり込んだという伝説のシリーズ。
初回テレビ放送よりすでに二十年近くすぎてもなお、人気はすさまじく、グッズを販売すればバカ売れ、リメイク版には高視聴率、映画になれば熱心なファンによるリピートだらけにてつねに満員御礼。
いまなおとんでもない経済効果を叩き出しているモンスターコンテンツ。
ロボットが登場し、等身大の主人公が苦悩し、個性豊かで魅力的なヒロインたちが多数登場。ナゾの敵やら、意味深な台詞やら、深いのか適当なのかわからない世界観、そして超絶展開の連続……。
視聴を終えたミヨちゃんがぽつり。
「なんだかめんどうくさい作品だね」
それを聞いてヒニクちゃんもぽつり。
「だからこそ人は熱狂する」
わかりやすい作品は、そこそこの人気で終わる。
引っかかりがある作品や突き抜けた作品は印象に残る。
名作と迷作は紙一重。どれだけ多くの人を狂わせられるか。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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