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718 ぽてち
しおりを挟むジャガイモを薄くスライスして油であげただけのモノ。
そいつが世界中のキッズどころかアダルトまでをも魅了してやまない。
数多ある商品。
袋入りから、カードのオマケ付き、紙の筒に入って売られている品まで。
最近では高級な特別品なんかまで専門店で売られていることも。
味も触感も風味も似て非なるもの。
千差万別にて、いったい世界中でどれほどの種類の製品が存在していることか。
たぶん誰も正確なところは把握していないだろう。
いや、このご時世だから、もしかしたらすべてを網羅している猛者がインターネットの海の彼方にいるのかもしれないけれども、少なくともミヨちゃんにはわからない。
「幼稚園の頃はあんまり好きじゃなかったんだけどねえ」
若かりし頃を振り返る小学二年生の幼女。
そう、あの頃、自分は若かった。
若いがゆえに味が濃い食べ物が苦手。
油っこいのもちょっと……。
美味しいとはおもいつつも、指先や唇が油分でテカテカ。
あと心なしか胃がズシンと重くなる感覚もどうにもこうにも……。
同じような理由で世界最古のインスタントラーメンも、あまり得意ではなかった。
それが大人へと階段をちゃくちゃくとのぼる過程にて、味覚が変化!
「二分ちょっとのチキ〇ラーメン、超うめぇ! この固さがスナック感覚にてたまらない!」
「ポテチ……、塩とコンソメとのり塩、はたして最強はどれか?」
などと言えるようになった。ふふん。
そんなミヨちゃん。個人的にはポテチはコンソメ派。
塩? 確かに美味しいし、王道だよ。でもなんだかちょっと損した気分になる。
のり塩? 味は認める。でも前歯がえらいことになるのが、乙女としては看過できない。
激辛? あれはダメだ。よい子には早すぎる。激辛は二十歳になってから。
長引く巣ごもり生活。
家にいる時間が通常の比ではない。
自然と増えていくのがコーヒーや紅茶のほかに、お菓子の消費量。
ましてやヤマダ宅には食欲モンスターである若い男が二人もいる。特に次兄の高校生のタカ兄は、食べ物が視界にあったら無意識に手をのばしてモグモグ。
いかに食べ盛り育ち盛りとはいえ、夕食から一時間もたたないうちに、カップラーメンをすすっているのはどうかと思う末妹のミヨちゃん。
若いうちは代謝が早いからちっとも太らないから、イケイケどんどん。
あきれるおばあちゃんと、憎らしげにみているお母さんの視線もおかまいなし。
「おかげで買っても買ってもキリがない!」
お母さん、買い物から帰るたびに、汗だくでパンパンのエコバックを担いでブーブー。
そんなモンスターたちからすれば、ポテチなんてただの前菜。うっかり棚に置いておいたら、次の日にはもう消えている。お母さんが知恵を絞って隠しても、いつの間にか見つけ出して食べちゃっている。
だからミヨちゃんは自分の分を確保しておく必要がある。
で、悩ましいのがその選択。
「海外製のは味が濃くて美味しいんだけ、カロリーが気になるんだよねえ。あと当たりハズレもけっこう多いし。いまいち率が半端ない。新しい味を冒険するには勇気がいる。たまにキワモノがあるから油断できない。かといって王道ばかりだと飽きるし。うーん」
いきなり電話をかけてきたかと思えば、「どうしよう」とポテチ談義をはじめたミヨちゃん。
応対をしつつヒニクちゃんがパリポリつまんでいたのは、ギザギザの波の入ったポテチ。味は和風出汁しょうゆ味。甘じょっぱいのがクセになる。
なお一人っ子のヒニクちゃんのところでは、オヤツの争奪戦なんて起こらないので、内心ではミヨちゃんのことがちょっとうらやましい。
そんな感情を隠しつつ、おもむろにヒニクちゃんがぼそり。
「いい加減に、裏の『遺伝子組み換えではない』表記は不要」
散々世界中の食品に遺伝子組み換え品が使われている時代。
いまさらそんなもの気にしていたら、きりがないもの。
というか遺伝子がこわくてポテチが食べられるか。
基本的にカラダに悪いモノほど美味いんだから。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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