上 下
712 / 1,003

718 ぽてち

しおりを挟む
 
 ジャガイモを薄くスライスして油であげただけのモノ。
 そいつが世界中のキッズどころかアダルトまでをも魅了してやまない。
 数多ある商品。
 袋入りから、カードのオマケ付き、紙の筒に入って売られている品まで。
 最近では高級な特別品なんかまで専門店で売られていることも。
 味も触感も風味も似て非なるもの。
 千差万別にて、いったい世界中でどれほどの種類の製品が存在していることか。
 たぶん誰も正確なところは把握していないだろう。
 いや、このご時世だから、もしかしたらすべてを網羅している猛者がインターネットの海の彼方にいるのかもしれないけれども、少なくともミヨちゃんにはわからない。

「幼稚園の頃はあんまり好きじゃなかったんだけどねえ」

 若かりし頃を振り返る小学二年生の幼女。
 そう、あの頃、自分は若かった。
 若いがゆえに味が濃い食べ物が苦手。
 油っこいのもちょっと……。
 美味しいとはおもいつつも、指先や唇が油分でテカテカ。
 あと心なしか胃がズシンと重くなる感覚もどうにもこうにも……。
 同じような理由で世界最古のインスタントラーメンも、あまり得意ではなかった。
 それが大人へと階段をちゃくちゃくとのぼる過程にて、味覚が変化!

「二分ちょっとのチキ〇ラーメン、超うめぇ! この固さがスナック感覚にてたまらない!」
「ポテチ……、塩とコンソメとのり塩、はたして最強はどれか?」

 などと言えるようになった。ふふん。
 そんなミヨちゃん。個人的にはポテチはコンソメ派。
 塩? 確かに美味しいし、王道だよ。でもなんだかちょっと損した気分になる。
 のり塩? 味は認める。でも前歯がえらいことになるのが、乙女としては看過できない。
 激辛? あれはダメだ。よい子には早すぎる。激辛は二十歳になってから。

 長引く巣ごもり生活。
 家にいる時間が通常の比ではない。
 自然と増えていくのがコーヒーや紅茶のほかに、お菓子の消費量。
 ましてやヤマダ宅には食欲モンスターである若い男が二人もいる。特に次兄の高校生のタカ兄は、食べ物が視界にあったら無意識に手をのばしてモグモグ。
 いかに食べ盛り育ち盛りとはいえ、夕食から一時間もたたないうちに、カップラーメンをすすっているのはどうかと思う末妹のミヨちゃん。
 若いうちは代謝が早いからちっとも太らないから、イケイケどんどん。
 あきれるおばあちゃんと、憎らしげにみているお母さんの視線もおかまいなし。

「おかげで買っても買ってもキリがない!」

 お母さん、買い物から帰るたびに、汗だくでパンパンのエコバックを担いでブーブー。
 そんなモンスターたちからすれば、ポテチなんてただの前菜。うっかり棚に置いておいたら、次の日にはもう消えている。お母さんが知恵を絞って隠しても、いつの間にか見つけ出して食べちゃっている。
 だからミヨちゃんは自分の分を確保しておく必要がある。
 で、悩ましいのがその選択。

「海外製のは味が濃くて美味しいんだけ、カロリーが気になるんだよねえ。あと当たりハズレもけっこう多いし。いまいち率が半端ない。新しい味を冒険するには勇気がいる。たまにキワモノがあるから油断できない。かといって王道ばかりだと飽きるし。うーん」

 いきなり電話をかけてきたかと思えば、「どうしよう」とポテチ談義をはじめたミヨちゃん。
 応対をしつつヒニクちゃんがパリポリつまんでいたのは、ギザギザの波の入ったポテチ。味は和風出汁しょうゆ味。甘じょっぱいのがクセになる。
 なお一人っ子のヒニクちゃんのところでは、オヤツの争奪戦なんて起こらないので、内心ではミヨちゃんのことがちょっとうらやましい。
 そんな感情を隠しつつ、おもむろにヒニクちゃんがぼそり。

「いい加減に、裏の『遺伝子組み換えではない』表記は不要」

 散々世界中の食品に遺伝子組み換え品が使われている時代。
 いまさらそんなもの気にしていたら、きりがないもの。
 というか遺伝子がこわくてポテチが食べられるか。
 基本的にカラダに悪いモノほど美味いんだから。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...