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705 びんじょう

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 ときおり不意にピコンと高騰するのが野菜の価格。
 大雨とか台風とか、天気のせいで収穫が減ったりしての値上がりはしようがない。
 収穫に適した季節が終わりを迎えて、野菜自体が減ってしまう時期もしようがない。
 けれども、本当によくわからないタイミングで上がることがある。

「なんで?」と首をかしげることもしばしば。

 つい先日まで、四分の一カットで百円ちょっとだった白菜が、気づけば倍近くになっている。
 つい先日まで、ひと玉二百円ちょっとで買えたキャベツが、気づけば倍近くになっている。
 ふだんあまり使わない珍しい野菜ならば、特になにも感じないけれども、頻繁に使用される野菜ならば、家計に大ダメージ!
 まぁ、何事にも原因があり、結果がある。
 それゆえに値上がりにもちゃんと理由があるから、突き詰めて調べてみたら納得いく理由が存在しているもの。
 けれども、世の中には野菜の価格のようにはいかないことが、ままある。

「昨日、ニュースでやってた。外国のある国で、移民の人がひどい目にあっているんだって」とミヨちゃん。

 きちんとした手続きをしての移住。
 仕事もちゃんとしているし、税金もしっかり払っている。
 どちらかというと、元からその国に住んでいる人よりも稼いでいるし、その分だけ国庫を潤してすらもいる。
 なのに迫害を受けるという、この理不尽。
 いわれのない差別を受け、罵倒されたり、暴力をふるわれたり、商品の購入を拒否されたり、アパートから追い出されたりと、もう無茶苦茶。
 しかもけっこう過激な事件なんかも発生しており、まるで社会全体が狂ったかのようにして、排斥運動が激化しているとか。
 ヒドイ話である。
 けれどもそんなヒドイ話が起こったきっかけが、これまたヒドイ。
 なんと、デマが原因だというのだから呆れてしまう。

 老人が若いグループに襲われてサイフを奪われたという事件があった。
 その犯人グループが移民の二世たち。
 杖をついてよちよち歩くようなお年寄りに暴力をふるい、お金を奪うという恥ずべき行為を知って、多くの人たちが義憤にかられた。
 で、それはもう烈火のごとく怒った。
 今のご時世、情報は瞬く間に拡散される。
 だから怒りのエネルギーもあっという間に伝播。
 国内を席捲するまで、ほんの半日ほどの時間だったという。
 こうなるともう集団は止まらない。たとえそれが誤解で、この事件には一切移民たちが関わっていなかったとわかったとしても。
 この流れに便乗する輩もあらわれて、事態はますます混迷の度合いを深めることに……。

「もう、わけがわかんないよ」

 憤懣やるかたなしのミヨちゃん。
 これ受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「声をあげることは大切。けど……」

 坊主憎ければ袈裟まで憎いは、ちょっとちがう。
 便乗するなとは言わない。けれどもただ怒りのままに、
 感情をぶちまけるのは、やっぱりちょっとちがう。
 とはいえ、叫ばないと声が届かないし。うーん。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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