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698 くち

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 口がうまい人がいる。
 緊張を取り除いたり、会話のきっかけを提示したり広げたり、あちこち話をふったり……。
 とにかくうまいこと場をまわす。
 そんな人がひとりいるだけで、ぐんぐん場が盛り上がる。
 そんな人は総じて、プレゼンテーションとかも上手。
 だから何かと頼りにされる。
 当人の気質だったり、生来の話し好き、人好き、あるいは見た目の甲乙、印象の是非など。
 天賦の才もあるけれども、後天的に訓練して身につけた人もいる。
 もしくは、存在するだけで場の雰囲気がガラリを変えちゃうような傑物も。

 同じことを説明しても、説明する人物の力量によっては、聞く者の感想がまるでちがう。
 ある政治家が本音をぽろり。とたんに大炎上!
 でもある芸能人が同様の意見を口にしたら、とたんに世間の共感を得る。
 ちょっとした言い方ひとつ、見せ方ひとつ、選ぶ単語、言い回しなんかでも、伝わり方がごっそり変わる。極端な話、語尾の一文字ちがいだけでも、雲泥の差が生じる。
 それを研究している学者もいれば、それを学んで自分の仕事に取り入れている者もいる。
 意図せずして実施している者もいる。
 で、これらを踏まえて、ミヨちゃんはつねづね首をひねっている。

「どうして、このおっちゃんの言葉は、いつもチンプンカンプンなんだろう?」と。

 同じ国に生まれ、同じ文化に身を起き、同じ言葉を話している。
 なのに言ってることが、さっぱり理解できない。
 大人と子どもという世代間ギャップを加味しても、ハテナマークがつねにつきまとう。
 すると悩める孫娘に祖母は教えた。

「あー、それはそいつが自分たちの選んだ総理じゃないからだよ」

 たいていの国では、トップになるにはトップになるべく、国民から多くの支持を集めなければならない。相応に試練と審査を受けて、その立場に着任している。
 けれども我が国では、ぶっちゃけ国会議員にさえ当選してしまえば、与党の中で選ばれれば誰でもトップになれる。
 選ばれる基準がこれまたよくわからない。
 少なくとも能力や資質にて選ばれた、確固たる実績ゆえに選ばれた、などという風ではない。
 その時々にて、いろんな人たちの都合のよい、軽いお神輿が選ばれた感が漂う。
 マスコミなんかは、そんな人物がやらかすたびに「選んだ国民にも責任がある」とくり返す。
 けれども「いやいやいや、自分、選んでないんですけど」というのが率直な気持ち。
 確かに政党は支持したかもしれない。
 けれども何もかもを許すわけじゃない。
 なのにいっしょくたにされて、都合よく解釈されている。

「なんだかなぁ」と思わずにはいられないミヨちゃん。「だからボロボロとボロが出るのかなぁ」

 人前で話す。
 これ一つとっても技量の差が如実に出る。
 吐き出す言葉が熱もを持ち、説得力を持ち、多くの心を揺り動かし、共感を得る。
 これを専門の仕事にしている人もいるぐらいにムズカシイこと。
 だから出来なくてもしようがない、のか?
 でも一方では巧みにこなしている人もいる。
 総じて、演説が上手いとされている政治家とか。
 そして今日もまた、言葉を発するたびに、国でいちばんえらいはずの人が、ボコボコに叩かれている。
 自業自得といえばそれまでだけれども、小学二年生に「それはヘンじゃないの」とツッコまれるのもどうかと思う。

 することがないので、ミヨちゃんの家の居間にて、ぼんやりとテレビの国会中継をながめていたときのこと。
 いっしょになってセンベエをかじりながら見ていたヒニクちゃんが、ぼそり。

「そもそもの話、トップの資質って何?」

 頭がいいこと。将来のビジョンが描けること。経済に明るいこと。
 信念があること。強靭な意思があること。国民の顔色を窺わないこと。
 他人の意見に耳を傾けられること……などなど。理想のリーダー像を
 数え上げたらきりがない。でもそんなスーパーマンはいないよね。
 よしんばいたって、そんな人が政治家や総理を志すとは思えない。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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