686 / 1,003
692 むき
しおりを挟む大人たちはことあるごとにこんな台詞を口にする。
「差をつけるなんてかわいそう」
「過度の競争を強いるのは虐待に通じる」
「何ごとも平等、公平であるべき」
まぁ、なんとなく言いたいことはわからなくもない。
だからって駆けっこで、手のつないでみんないっしょにゴールとかは、ちょっとちがうような気がする。
なにより現実は世知辛い。
容赦なく幼心を打ちのめす。
大人たちが言っているのは、現実に則しておらず、もはやファンタジー。
無茶な思想を押し付けられる子どもたちだって、そんなことはとっくに理解している。
というか、そもそも大人たちは盛大なかんちがいをしている。
なにせ当の子どもたちこそが、競うことが大好きなのだから。
駆けっこをすればムキになるし、ドッジボールをすればムキになるし、スモウをしてもムキになるし、バスケットボールにサッカーや野球をするときだってムキになる。
テレビゲーム、カードゲームにあれやこれ。
はてはテストの点数を競ったりもする。
勝てばよろこび、負ければ悔しがる。
切磋琢磨して、互いを高め合うなんて、そんな立派な考えは毛頭ない。
ただ目の前の勝負にのめり込む。
なぜか?
それは夢中になるほうが楽しいからだ。
ムキになるほど真剣にて、勝っても負けても得られる満足が競争の先にはあるからだ。
そりゃあ、ものには限度というものがある。
良識ある大人が言うように、心と体に多大な負担を強いるような競争は論外。
でも、あえて苦難に立ち向かおうとする子どもの邪魔をするのは、挑戦しようとしている子どもの前に立ちふさがるのは、いかがなものかと。
で、現在、ミヨちゃんの教室で流行しているのが、何故だか腕相撲。
もっとも原始的かつ、いつでもどこでも行える競争。
他人よりも強い腕力を持つ者が勝つ。体躯に恵まれた者が勝つ。
もちろんアームレスリングには技術が存在する。呼吸の読み合い、高度な駆け引き、頂きを極めようとすれば、その道は果てしない。単にチカラだけでは到底無理だろう。
けれども小学二年生では、そこまでは必要なし。
「おらぁ」気合一閃。押し倒すばかりにて勝敗がつく。
だから腕白な子が流行当初は天下をとっていた。
しかし長くは続かない。
調子にのって女子に手を出したのが運の尽き。
小学生の段階では、ある程度までは女子の方が発育がいい。
なによりミヨちゃんのクラスには、すでに上級生ばりの体力と体躯を保有するリョウコちゃんがいた。天賦の才のみならず、日頃から鍛錬を欠かさない彼女に、へにゃちょこどもが束になってもかなうわけもなく、絶対女王が誕生。
その暴腕ぶりにて、あっさり殿堂入り。
でも悔しい男子たち。女子に負けっぱなしはイヤ!
そこで他の女子たちにちょっかいを出す。
勝ち星を稼ぐために、プライドを捨てた男子ども。
なにやら本末転倒ながらも、これに巻き込まれた女子たちこそはいい迷惑であった。
ミヨちゃんも度々勝負を挑まれては「あーん」とぺしゃり。ごんと手の甲を机にぶつけられて、「うー」と涙目に。
もっとも弱者をいたぶって得た勝ち星は、直後に怒ったヒニクちゃんによって、あっさり消されてしまうのだが……。
家でゾウガメのポン太を飼っているヒニクちゃんは、お人形さんと見まがう容姿ながらも、これでなかなかのチカラ持ち。趣味の家庭菜園も手伝って、けっこうな剛腕なのである。
貧弱な坊やをやっつけたヒニクちゃんが、相手を見下ろしフッと鼻で笑う。
「体よりも、まず心を鍛えろ」
肉体改造に魅せられ、とり憑かれたように鍛錬をする者がいる。
異常な生活を経て、見事を通り越し、やがて歪な肉体へと変貌。
しかし人は人以外にはなれない。そこまでやってもゴリラに勝てない。
野生と種の壁はあまりにも高く厚い。なにごともほどほどに。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる