ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

690 あれ

　
　でんでんむしむしカタツムリ。
　絵本とかで見るとかわいらしいけれども、実物はけっこうグロい。
　ねちょねちょしているし、ツノがうにょうにょしている。
　背負っている殻だって、お世辞にもキレイとはいえない。
　ぶっちゃけ家持ちのナメクジにしか見えない。
　ちょっと裕福なナメクジにしか見えない。

　ヒニクちゃんとの散歩中のこと。
　葉っぱの上にのっているカタツムリを見つけたミヨちゃん。
　コレをしばし、じーっと眺めてからぽつりとつぶやいた。

「そういえば、花嫁さんが頭にかぶる白い布があるでしょう？　アレって『ツノかくし』っていうんだって」

　角かくし。
　和式の婚礼の儀にて、花嫁さんが髪を文金高島田に結って、頭を覆うようにして巻かれる帯状の白布のこと。
　どうしてこのようなものをかぶるのか？
　所説あるものの、女性の嫉妬深い性質や怒りっぽいことを隠す意味合いがあるんだとか。
　いにしえより、女性は何かと鬼になりやすいと考えられていたそう。

「いまもむかしも女は女なんだね。でも、誰が女を鬼にするのかってことも忘れちゃあいけないよ。だとすれば、このネーミングってちょっとヒドイよね。せめて『ネコかぶり』とかにすればいいのに」

　そう言って女性の立場を擁護するミヨちゃん。
　しかし猫をかぶるとは、食わせ者とかの意味。
　それはそれでどうなのかしらんと、ヒニクちゃんは首をかしげる。

「それでねえ。和装だとツノかくし、洋装のウエディングドレスだとベールになるんだけど、ベールにはまたちがった意味があるらしいよ」

　ウエディングベール。
　ベールは穢れなく清らかなる者の象徴。
　花嫁を邪悪なものから守る役割を持つ。
　同じ花嫁が頭にかぶるモノだというのに、この差はいったい……。

「ベールだとオシャレ感がすごい。でも、わたしはつねづね思うのだよ。たぶん、これって後付けだよね。対外的にそれっぽい理由をつけたんだよ。だって海外の女の人の方が当たりがキツイもの。あっちは鉄拳制裁も辞さないよ？　キャットファイト上等だよ！　だからね、きっと根はツノかくしと同じ理由だったはずなんだよ」

　が、それだと少々世間体が悪いと判断した、某世界最大級の宗教団体が裏で動いたのにちがいない。きっと女性層を取り込むために行った政治判断。もしくは女性陣から強烈な突き上げを喰らったか。
　そんな陰謀論をぶちまけたミヨちゃん。

「もしかしたら、ベールにも失われた名前があるのかもしれない」

　けっこう大真面目にてミヨちゃんがそうつぶやいたところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「広東住血線虫」

　カタツムリに寄生する虫。人間に感染すると脳や脊髄がやられる。
　ロイコクロリディウムという虫もいて、こっちは宿主を操る。
　そんなのを飼っているカタツムリ半端ない。そして女性もまた……。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。