ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

689 そうけい

　
「最近、時代劇があんまりテレビで放送してないんだよねえ」

　わりとチャンバラ好きのミヨちゃん。これをおおいに嘆く。
　かつてはどの局でも週に一か二ぐらいは放送枠を持ち、連続ドラマとして流してた。
　けれども、それも遥か過去の時代のお話。
　いまではときおり、特番枠にてスペシャル版が放送されるか、再放送が関の山。
　かわりに海外のドラマがばんばん流されている。

「いや、海外のも面白いといえば面白いの。でも、わりとワンパターンというか、ジェットコースターにて、ありえない不幸てんこ盛りで、そのくせダラダラ長い。そしてラストのざまぁ、とおもえば蛇足にて、みんななんだかんだで落ち着くところに落ち着いた的な終わり方なのが、うーん」

　時代劇だってワンパターンといえばワンパターン。お約束の展開満載。
　いろいろトラブルが発生し、主人公たちがそれに立ち向かうという流れは同じ。
　けれども、心の機微とか、物事の捉え方とか、琴線に触れる部分とか、映像の見せ方とか。
　やっぱり海外産と国内産とでは違ってくる。
　視聴後に残るモノが違ってくる。

「剣戟ひとつとっても、動きが全然ちがうから。海外のはなんだかんだでハリウッドぽかったり、ワイヤーアクション？　とかいうのが主体で、動きは派手で見ごたえがあるけれども、重力無視のやりたい放題でマンガみたいなの。いまいち腰が定まっていないというか。比べて時代劇の方は、殺陣師とか切られ役の人たちの迫真の演技にて、まるで別物」

　あれはチャンバラをとことん突き詰めた演芸芸術である。
　そう断じるミヨちゃん。
　再放送にて古い時代劇なんかを見ても、やっぱり惚れ惚れしちゃう。
　時代や世代に関係なく、ババン！　と訴える迫力は圧巻のひと言。
　かつてリアルタイムで視聴していた子どもたちが夢中になって、丸めた新聞紙片手に「えい」「とう」とチャンバラごっこに興じたくなる気持ちがよくわかる。
　だからこそ、ミヨちゃんはとっても残念に思っている。
　やれ、製作費がかかるとか、撮影時間がかかるとか、衣装や道具がたいへんだとか、時代考証がとか、なにかと理由をつけて、及び腰になるテレビ局や制作会社どもに。

「知ってる？　その裏では海外で放送されて、海の向こうで大人気なんてケースもいっぱいあるんだよ。それを見て、わざわざこっちに旅行に訪れる人も多いんだって」

　とかく自分のことはよくわからないもの。
　自分たちがすっかり見慣れて、目新しくもないと考えているものが、他所からみればキラキラ光り輝いてる素晴らしいモノだったりするというのに。

「まぁ、そんなわけで各局ともにがんばって欲しいわけだよ。若者のテレビ離れが叫ばれてひさしいけれども、わたしのように、まだまだテレビを愛する者がいることも忘れてほしくないの。あと国営放送、てめえは国に守られ、料金をも強制徴収するくせに、時代劇専門チャンネルとかを見るのなら、更にカネを払えって、ちょっと納得いかない」

　そのくせちゃっかり、なんちゃらプレミアムとか、専門チャンネルのコマーシャルはばんばん流す。
「あっ、こんど面白そうなのをやるんだ」と喜んだのも束の間、例のプレミアムとかだったときのガッカリ感ときたら、そりゃあもう。
　もろもろのうっぷんをミヨちゃんがぶちまけたところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「みんな大好き織田信長」

　小説、時代劇、マンガにアニメにゲームにこぞって登場。
　竜馬、十兵衛、半蔵とかも人気だけれどもダントツの支持率。
　ただ理由がよくわからない。やはり夢半ばで逝くところかしら。
　そいうえば例にあげた人物、みんなわりと早逝ね。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。