ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

669 がけ

　
　野生を追いかけたドキュメント番組にて。
　雄々しいヌーの群れが征く。
　大地を突き進み、土煙をあげて、数多のヌーが新天地を目指して駆ける。
　勇壮だけれども、絶えず危険がつきまとい、脱落すれば死が待つ旅路。
　大自然の弱肉強食をまざまざと見せつける迫力ある映像に、ミヨちゃんの目はすっかりクギ付けとなった。
　やがてヌーの群れが大河を渡る。
　押し合いへし合い突き進むも、そこには危険がいっぱい。
　流れに足をとられれば溺れ死ぬ。
　水辺に潜むワニの凶悪な口が狙ってる。
　よしんば無事に渡り終えたとて油断はならない。そこには疲労困憊にて弱っている獲物を待ち受ける、大型の肉食獣の姿が！
　襲う方も逃げる方も必死。
　みんな生きるために、ひたすら懸命であった。
　その光景は残酷でもあり、美しくもあり、生命賛歌でもあり。
　とにかくミヨちゃんは圧倒された。
　そして、ふと、こんなことを思った。

「集団のチカラってすごいけど、これじゃあ、急には止まれないよね」と。

　例えばヌーの群れの先に、断崖絶壁が待ち受けていたとする。
　当然ながら先頭にて群れを率いるリーダーはいち早く危険を察知。

「危ないぞー！」とみんなに告げる。

　近くにいる者たちや、すぐ後ろにいる連中は、その声に反応して、「わかった」と止まろうとする。
　けれども、後ろの連中にまでは中々伝わらない。
　そのために前方の一団が止まろうとも後方の集団が止まらない。
　結果、群れは突き進み続ける。
　そして集団自殺さながらに崖へと次々落ちていくことに……。

　この話をスーパーの軒先にて、特売のトイレットペーパーに群がる主婦たちを見つめながら、ヒニクちゃん相手に口にしたミヨちゃん。

「車は急に止まれない。大型トラックや列車ともなればなおさら。だからブレーキが間に合わずに事故が起こっちゃう。われさきにと何かに群がる人間もまた同じ。みんなヌーの群れなんだよ。そして気づいたときには、きっと手遅れ」

　個人では、このままではイケないととっくに気づいている。
　小集団でも、なんとかしなくちゃと細々ながら行動を開始。
　けれども中規模から大規模の集団になると、とたんに動きが鈍くなる。
　そしてなぁなぁのままにて、ズルズルそのまま現状維持。
　環境問題しかり、エネルギー問題しかり、資源問題しかり、貧困問題しかり、各種差別しかり。

「もしかして……。わたしたちってば、けっこうガケっぷち？」

　ミヨちゃんが首をコテンとかしげた。
　それを横目にヒニクちゃんがぼそり。

「ガケっぷちというか、どちらかというと綱渡り」

　このままだとダメだと、誰かが声をあげた。
　そうだそうだと、追随する者が大勢増えていく。
　なのに変わらない。賢いふりして、しょせんはその程度。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。