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663 むかん
しおりを挟むサッカーの試合なんかで、たまに見かけることがあるのが、無観客試合。
実施される理由はさまざま。
国際情勢を鑑みてというものから、過激なサポーターたちが原因だったり、悪質な病気が流行していたり……。
プロの試合ならばテレビの生中継にて、一般公開という手段もある。
近頃ではネット配信なんて方法がとられることも増えてきた。
それでも現場には、ふだんとちがう静けさが漂う。
雰囲気もガラリとかわるはず。
そんな中で最高のパフォーマンスが発揮されるのだろうか。
はたして選手たちの心情やいかに?
「実際のところ、応援のあるなしって、やっぱりちがうの?」
昼下がりの教室の片隅に集い、おしゃべりに興じていた五人の幼女。
会話の中で、疑問を呈したのはミヨちゃん。
これを受けて「うーん」と考え込んだのはリョウコちゃん。スポーツ万能にて、地元のサッカーチームに所属している、スレンダー幼女。
「ちがうといえばちがうかも。もっともプレイしている側からすると、応援に耳を傾けている余裕はちょっとないかなぁ」
応援がチカラになる。
観客席からヒロインが送る声援が奇跡の逆転劇を呼ぶ!
なんて展開、スポ根ものではお約束だけれども、実際には懸命にボールを追いかけているから、余計なことにかまっている暇なんてなし。
耳を傾けるべきは仲間の声と、監督からの指示。
それ以外は、言い方は悪いけれども雑音に等しい。
ましてや客席にいる彼女や彼氏に意識を向けるなんて、とてもとても。
実体験から導き出された身もフタもないご意見に、「おぅ」「だよねえ」と地味にショックを受けているミヨちゃんとチエミちゃん。
するとアイちゃんが、こんなことを口にする。
「競技にもよるんじゃないかしら。サッカーとか野球って応援が派手でしょう? 元から静かに観戦するタイプのスポーツなら、あまり気にならないかも」
そう言ってアイちゃんが例に挙げたのは、ゴルフとか相撲とか。
前後に歓声はあがるものの、プレイ中は無言で見守るのが客のマナー。
だから居てもいなくてもあまり関係ないかもと考えた。
けれどもこれに異を唱えたのはチエミちゃん。
「ゴルフは自分との闘いだからそうかも。でも、格闘技系はちがうと思う。テンションあげて試合にのぞまないと、勢いに呑まれちゃうんじゃないかな」
アドレナリン全開にて、鼻息荒く入場。
オラオラと相手を激しく責め立てる。
祭りの最高潮にも似た状態に持っていくには、観客たちの熱気がひと役買っているとの自論を展開するチエミちゃん。
言われてみれば確かにと、ミヨちゃん、リョウコちゃん、アイちゃんもうなづく。
それらの話を聞いて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「むかしは、わりと無観客状態に近い試合が多かった」
プロ野球の試合でも人気のない球団同士の対戦では、
ほとんど客席に人の姿がなかったことなんて、ざら。
あの頃をふり返れば、いまはわりといい時代だと思われる。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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