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659 さ
しおりを挟むみんな仲良く。
人類みな兄弟。
職業に貴賎なし。
エトセトラエトセトラ……。
建前上、大人たちは子どもたちに「差別はダメ! 絶対!」と教える。
子どもたちは大人たちの言うことなので、「なるほど」といちおう納得して、それはそういうものだと理解する。
けれでも、じきに、アレ? と首をかしげるようになる。
なぜならダメと言われていることが、巷にはあふれているから。
親の因果のせいで、子どもが集団から疎外される。またはその逆もあり。
国籍がちがったり、肌の色がちがうだけで、扱いがことなる。
性別がちがうだけで、利益を得たり、不利益をこうむったり。
家が富めるがゆえに、もしくは家が貧しいがゆえに、付き合う相手が変化する。
ちょっと容姿が優れていたり、成績がよかったりするだけで、所属集団が固定されがち。
誰かさんと誰かさんが付き合っていたら、まったく関係のない第三者が「どうしてあんな相手と? あの人に相応しくないよ」とか余計なお世話。
生まれがどう、先祖が誰それ、育ちがこうだった。
出身地、通った学校、所属していたクラブ……。
ことあるごとに平等と人権を声高に叫び、お題目として掲げ、「ふふん、ウチはお宅とはちがうざます」といった態度にて、それこそが先進国の証でもあるかのような思想が蔓延している地域。けれどもひと皮むけばなんてケースもちらほら。
これらのことを目の当たりにして、子どもたちは幼心に悟らざるをえない。
「あー、これが本音と建て前とかいうやつなんだ」と。
凶悪な犯罪を犯した者の裁判のたびに、弁護人はこう主張する。
「更生の機会を奪ってはならない」
いやいやいや、ちょっと待って。
加害者の権利は守られるのに、被害者の権利はムシされるの?
死ねば権利の一切が奪われちゃうの?
命だけでなく、尊厳から何からすべて取り上げられちゃうの?
あと、こういっては何だが、裁判が結審し、刑務所にて罪を償ったとて、「はい、おしまい」なんてことにはならない。
世間は、社会は、人間は、「おかえりなさい」と笑って受け入れられるほど、器がデカくないもの。
どこにいっても色眼鏡で見られて、さぞやしんどいおもいをすることであろう。
とある先進国に出稼ぎに来ていた若者。
毎日、遅くまで工場でがんばって働き、収入の大半を故郷の家族に仕送りをしている健気な好青年。
日中、路上を歩いていたら、いきなり四人組に囲まれて、因縁をつけられボコスカ殴られた。
窃盗目的とかならば、まだ救いがあった。
けれども暴行の理由は「オレたちの国から出ていけ。この(自主規制)野郎!」とかいう、むちゃくちゃなもの。
襲われた青年は何も違法なことはしていない。
きちんとした手順を踏んで入国し、就労していた。税金だって納めている。
それなのにこの仕打ち。
この出来事をニュースで知ったミヨちゃんは、とっても呆れている。
一部の阿呆どもの仕出かしたことと言い切るのは簡単だ。
けれども実態はちがう。
社会の根底には得たいの知れない何かが、ぞろりと這いまわっている。
それが人の心を容易く惑わし、狂わせている。
「白だの、黒だの、黄色だの、しようもない。差別ってなんなんだろうねえ」
下校中の夕焼け空を見上げつつ、幼女が寂しそうにつぶやく。
その横顔を見つめながらおもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「悲しいことに人類普遍の心理は、愛ではなく差別」
有史以来、せっせとがんばっている信仰ですらもが、
人類に愛を浸透させるには至っていない。なのに、
たった一人の悪意によって差別は爆発的に波及する。
これはもはや不治の病のようなもの。賢く付き合うしかない。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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