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654 ヒーローショー
しおりを挟む某有名ヒーローが最寄りのスーパーマーケットにやってくる!
ふつうに考えたら、ヒーローがどさ回りとか、絶対にありえない状況なのだろうけれども、子どもはそんなことは気にしない。
ただ、素直に「やったー」とよろこび大はしゃぎ。
スーパーの駐車場にて十五分ほどのショーを演じ、スーパーで三千円以上の買い物をしたお客さまには、レシートと引き換えに握手とサイン色紙が貰える。
なかなかにこすい商売。
だが子どもには効果絶大。「ねえねえ」と我が子からせがまれたお母さんたちも「しょうがないわねえ。そのかわりちゃんと家のお手伝いをするのよ」となる。
で、ミヨちゃんとヒニクちゃん。
特に興味はなかったが、お祭り騒ぎだから、ちょいとショーを見学に参上。
するとスーパーの駐車場には黄色い声援!
しかも子どもより、お母さんたちの方が興奮している。
どうしたのかと特設ステージを見てみれば、そこには長身イケメンの姿。
「あれ? 珍しい。着ぐるみの方だけじゃなくって、中身まで来てるよ」
ミヨちゃんが驚くのも無理はない。
いまや特撮ヒーローの主人公は、若手俳優たちの登竜門となっている。
だから登場するのは、これから芸能界に羽ばたこうとするスターのタマゴ。
売り出そうと事務所が猛プッシュしていることもあって、わりと仕事が立て込んでおり、こんな場末のしみったれたステージになんて来るはずがない。
事前の告知チラシにもそんなことは、ただの一行も書かれていなかった。
いわゆるサプライズ演出とでもいうのだろうか?
それにしては豪華すぎる……。
「ここの店長、何かあの人の弱味でも握っているのかなぁ」
ドロドロした何かを深読みをするミヨちゃん。
するとそばで幼女の物騒な発言を聞きとがめたパートのおばちゃんが、ケラケラ笑う。
「いやねえ、ちがうわよ。あのカッコいい子ってば、うちの店長の学生時代からの友人の息子さんなんだって。それでたまたま休みが重なったからって、わざわざ来てくれたのよ」
まさかの友情出演だった!
たまにドラマや映画のスタッフロールとかで見かけるけれども、あんなのウソっぱちだよとか考えていたのに、本当にあるんだと知ってミヨちゃん、ちょっとドキドキ。
しかもイケメンはめちゃくちゃ愛想がよく、写真撮影なんかにも気軽に応じている。見た目ばかりか中身もイケてる。
「まだ業界に染まってない感じが、初々しいね。そりゃあママさんたちも夢中になるね。子どもそっちのけで応援したくなっちゃうよ」
ミヨちゃんがそんな感想を零したところで、おもむろにヒニクちゃんが沈黙を破った。
「世の奥さま方に好かれて損することはない」
ツイッターにSNS、動画配信などのソーシャルメディア。
個人で行えるアピール方法が多彩化したおかげで、良くも悪くも
距離が縮まった芸能人とファン。でも最先端のツールを使って、
やってることは、スナック行脚やドブ板選挙と変わらないのよね。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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