649 / 1,003
649 てくせ
しおりを挟む病院や学校、市役所に図書館……。
近頃では衛生意識が高いスーパーマーケットの入り口にも置かれてあるのが、アルコール消毒のポンプ。
シャンプーの入れ物のような容器。
頭を押すと、注ぎ口からにゅるんとゼリー状のモノが飛び出したり、液体タイプが出てきたり。
ここのところ世界的に新型ウイルスが猛威をふるっているせいか、ドラッグストアの棚から姿を消しがちながらも、人が集まるところではわりと置いてあるのが目立つ。
少し前までは、ムシして素通りしていたけれども、今ではみんなこぞってポンプをプッシュし、入念にぬりぬり。
だからミヨちゃんとヒニクちゃんも見かけるたびに、ぬりぬり。
もっともそれは衛生意識の高まりからというよりも、「手に入りにくい貴重品。それがタダなんだから、やらないと損だ」ぐらいの感覚。
あるとき最寄りのスーパーに立ち寄ったミヨちゃんとヒニクちゃん。
いつものように、ぬりぬりしようとするもポンプが置いてなかった。
「あっちゃー、ついに在庫が切れちゃったのかな。一日百人単位で客がくるもの。大人だと一度に使う量も多くなるだろうし、あっという間になくなっちゃうよね」
もともとがお店側のご厚意による提供。
それが突然になくなったからとて、これまでのことに感謝こそすれ、文句を言う筋合いはない。だから「しょうがないよね」とミヨちゃん。
するとそんなミヨちゃんの袖をクイクイと引いたのはヒニクちゃん。
ヒニクちゃんが指さしたのは、壁に貼られた一枚の紙。
「えーと、お店からのおしらせ。なになに、この度、残念なことに設置してありましたポンプが……って、盗られちゃったの!」
いつものごとく設置してあったアルコール消毒のポンプ。
容器がプラスチック製なので、とくに固定などすることもなく台の上に置いてあった。
それがいつの間にか消えてしまったという。
張り紙にはそのようなことが書かれてあった。
ムズカシイ漢字を飛ばしつつ読破。ざっくりと内容を知り、とってもおどろくミヨちゃん。「ひどいっ! 信じられない!」とたいそう憤る。
お店側の心意気を台無しにするような悪行。
たまに公衆トイレとかからトイレットペーパーを盗んじゃう人がいるけれども、時節柄、ちょっと意味合いがちがってくる。
なんというか、より悪辣な何か、魂の邪悪さを感じて、幼女はプンプン怒った。
けれども少し落ち着いて冷静さを取り戻したところで、「アレ?」と首をかしげる。
「ここって絶えず、お客が出入りしている場所だよね。いつも誰かの目があるのに、いつの間に盗ったんだろう」
衆人環視の中、狙った獲物をあっさり奪う。
まるでマンガやアニメに登場するドロボウのごとき、鮮やかな手口。
「むむむ……、だとすればコレはプロの犯行ということに」
クチビルをとがらせて、うなるミヨちゃん。
それを見ておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「プロはプロでも、たぶん万引きの類だと思う」
手癖の悪い人というのは、どこにでもいるもの。
彼らはごく自然に、そこに置いてあるものを、カバンやポッケに入れる。
喰うや喰わずで仕方なくなら、まだ同情の余地もあるんだけど、
たいていサイフにけっこう入っているのよね。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる