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647 ぶゆうでん
しおりを挟む統廃合にて閉校した市内の高校。
その敷地を使って映画の撮影がされることになった。
いまをときめく若手俳優から、これから売り出されるであろうイケメンたちがこぞって参加するとあって、地元はかつてないほどに浮き足立つ。
基本的に撮影をのぞくことは禁止されているけれども、協力に感謝を込めてとの理由にて地元民だけ特別に招待しての公開撮影が実施されることに。
これにより限られた招待チケットを巡り、熾烈な争いが勃発したのだが、それについては割愛する。
で、これに見事、当選したのがミヨちゃんとヒニクちゃんとチエミちゃんの三人。
招待された日に、撮影場所となる高校へと乗り込んだ幼女たち。
門を一歩、入ったとたんにギョッとなる。
そこかしこに屯するのは、変形ズボンやら学ランといった気合の入った格好をした目つきの悪いヤンキーたち。
ゴリゴリの強面から長身イケメンまで、大勢いそろっている。
これすべて出演する俳優やエキストラたち。
壁にはペンキで走り書きがされており、窓ガラスは割れまくり、壁にも穴が開きまくり……。
撮影用にセットが組まれ改装が施された高校は、それはそれは荒んでいた。
すっかりかわり果てた校舎を見上げて、あんぐりの幼女三人組。
「海外ドラマのプリズンでブレイクだよ」とミヨちゃん。
「こんな学校、ぜったいに通いたくない」とはチエミちゃん。
「……いい仕事」と裏方の妙技に感心するヒニクちゃん。
そう。今回、撮影される映画とは学校を舞台にしたヤンキーものだったのである。
かつてヤンキー映画といえば、各校の不良どもが地域ナンバーワンの腕っぷしを決めるために、タイマン勝負をしたり、学校同士で集団戦をしたり。
わりと拳で語り合う内容だったのが、時代の流れとともにどんどんスケールアップして、バイクが入り乱れるわ、木刀や警棒や鉄パイプで殴り合うわ、もはや世紀末の様相を呈している。
なんでも本作ではラストに総勢、千人ものヤンキーどもが校庭に集い、大乱闘を演じるのがクライマックスとなっているとか。
規模が規模なので一発勝負で撮影するらしい。
また派手なアクションや壊れまくりの小道具や舞台装置ゆえに、現場にはある種、独特の緊張感みたいなものが漂っており、それが校内にピリピリとした異様な空気をもたらしている。
それに役者たちも役に入り込むがゆえに、トゲトゲしさを身にまとい、「寄らば斬る」と言わんばかりの雰囲気。
係のお兄さんに案内されつつ、撮影現場を見学していく幼女たち他の参加者らも、それに圧倒されていつしか黙り込んで、静々とついていくようになっていた。
「この分だと気軽にサインとかもらえそうにないね」
「ヨーコ先生に頼まれた、なんとかいうイケメンも見当たらないよ」
チエミちゃんとミヨちゃんがヒソヒソ話。
するとそれを耳にした案内役のお兄さんが「あー、その役者さんは今日はいないかなぁ。ああいうメインの人たちは、だいたい別撮りだから。ごめんね」と教えてくれた。
そんな会話を聞き流しつつ、ヒニクちゃんがぽつり。
「ヤンキー化は青春の麻疹」
大抵は卒業、もしくは社会人になって自然と鎮静化。
けれどもときおり、いい歳をして再発することもある。
あとおっさんどもの武勇伝は聞くにたえない。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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