上 下
644 / 1,003

644 くすり

しおりを挟む
 
 ミヨちゃんが風邪を引いた。
 お母さんが早速、風邪薬を飲ませようとするも、それを止めたのはおばあちゃん。

「あんなもの、飲むだけムダだよ。風邪のときはゆっくり休むのにかぎる」

 でも微熱にて、顔を赤くしながらゴホゴホ苦しんでいる愛娘を前にして、「でも……」とお母さんは食い下がるも、おばあちゃんは頑としてゆずらない。

「効きやしないクスリを飲ますぐらいなら、プリンとかゼリーとか果物の缶詰でも用意しておいてやりな」

 そんなやりとりがあったことを、三日ほど寝込んですっかり元気になったミヨちゃん、あとから聞いて知った。
 そして首をかしげる。

「でもカゼのクスリって、テレビでバンバン、コマーシャルやってるよね?」

 速攻なんちゃら、早めにほにゃらら、症状にあわせてふふのふん。
 なんて具合に、市販薬のCMが放送されまくっている。
 解熱鎮痛剤、抗ヒスタミン剤、去痰剤、鎮咳薬などなど、風邪の諸症状を抑える成分がてんこ盛りの総合感冒薬。
 だれもが一度や二度はお世話になったことのある市販薬。
 けれども一方で、こんな話もまた耳にしたことがあるはずだ。

『風邪に特効薬はない。風邪と水虫の薬を発明したらノーベル賞確実』

 カゼはウイルス感染症。
 関連するウイルスの数は二百種に及び、カゼにてもっとも猛威をふるっているといわれるライノウイルスは、それだけで百を超える多彩な親戚を持つ。
 ひと口にカゼといっても、これらが複雑に絡み合って時々でいろいろ。
 とどのつまり、これらすべてに対応できる薬剤なんて、存在し得ない。
 で、ウイルスだから抗生物質は効かない。
 風邪を引いてお医者さんに診てもらって、それっぽい薬を処方してくれるのは、それで患者が納得して、精神的なストレスが少しは下がるから。
 ぶっちゃけあれらの薬の中でもっとも効果を発揮しているのは、眠気を誘う成分ぐらい。
 風邪に対して、安易に薬を飲むのは逆効果とさえ、言われている。

「なのに、それっぽいことをいって売ってるけど……。あれって法律的にだいじょうぶなのかな?」

 絶対ヤセると言って、ダイエット関連の商品を売ったら即アウト。
 誇大広告が厳しく取り締まられて、インターネットとかでも監視の目が厳しくなってひさしい。
 なのに、どうして風邪薬だけがお目こぼしを受けているのだろうか?
 海外の某有名な医学会では、「市販されているあらゆる薬に、その確かな裏づけは
なかった」との報告もあげているとか。
 やたらと諸外国の目を気にしては、すぐに自分たちと比べたり、影響を受けまくったり、流されまくるくせに、風邪薬については沈黙したまま。
 このことを知り、ミヨちゃんは思った。

「ぶっちゃけ、サギじゃね?」

 それを聞いて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「風邪薬はファンタジーの産物」

 いいお医者さまほど、安易に薬を出しはしない。
 けれども巷で人気なのは、患者が望むままに、ドドンと
 気前よく薬を出してくれる医者。でもあれって、たんに
 説明して説得する労を惜しんで、面倒くさがっているだけだから。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

処理中です...