ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

626 みかた

　
　サル一匹が街中にあらわれただけでニュースになる。
　イノシシが水路に落ちて身動きがとれなくなっただけでニュースになる。
　カルガモの親子がテクテク道路を横断するだけでニュースになる。
　恋人たちがクレープ片手に河原でいちゃついていたらトンビに盗られてニュースになる。
　牧場から馬が脱走したらニュースになる。
　河川敷にノライヌの姿が目立つとニュースになる。
　ネコがじゃんじゃん増えている島がニュースになる。
　都会でタヌキが目撃されるとニュースになる。
　屋根裏でアライグマが目撃されてもニュースになる。
　トリの群れが街の上空を旋回してもニュースになる。
　かしこいカラスがやりたい放題にてニュースになる。
　などなど……。

　なにかとニュースに取り上げられては話題となるのが動物ネタ。
　視聴者はほっこり和んだり、ハラハラしたり、怖くなったり、かわいそうと同情したり。
　まぁ、でも実際のところは人間側の勝手な思い込みの投影に過ぎない。
　かならずしも見た目通りの意味が含まれる行動とは限らないのが、動物の動物たるゆえんにて、ムズカシイところ。
　オヤドリがせっせと巣でまつ我が子に餌を運ぶ。
　まことに情愛溢れる光景にて、世間で育児放棄とかしちゃっている阿呆な親どもは、そのトリたちの糞でも煎じて飲めばいい。
　なんぞと考えがちだが、オヤドリの行動に愛はない。たんなる反射行動だという。
　それっぽく見えるから、それっぽい意味を勝手に当てはめて、それっぽい感動に包まれるのは、どこまでも人の身勝手さゆえに。
　なんでもかんでも人の定義に収めようとする行為こそが傲慢。それこそが人の業であり、罪である。

「ほら、たまに海外の映像とかで枯れ井戸に落ちた子犬を助けたりするのがあるでしょう？　レスキューとかが出動して、ショベルカーとかまで使って、救出するの。あれってスゴイけど冷静になって考えると、ひどい話だよね」

　下校中の足を止めて空を見上げたミヨちゃん。
　遠ざかるトリの群れを眺めながら、そのような話しをつらつらと。
　井戸を掘ったのは誰？
　人間です。
　枯れた井戸をそのまま放置したのは誰？
　人間です。
　落ちたら危ないのなんて誰だってわかっているのに、フタもせずにそれっきり。
　で、イヌやネコや、ときには小さな子なんかが落ちちゃうと大慌て。
　全力全開での救出劇を演じる。
　ニュースにもなって、助かってよかったね。ちゃんちゃん。

「じゃねーよ！」と、ミヨちゃんはぷつぷつ怒りを感じている今日この頃。

　そもそも堀った穴なら、ちゃんと埋めとけ。
　危険がないように処置しておけ。
　横着のつけが回ってきただけじゃないの？　と言いたいわけだ。
　自作自演とまでは言わないが、限りなくそれに近い素地がある。

「これってけっこうタチが悪い気がする。やってることは自分で事件を起こして、自分で解決している迷探偵と同じだよ」

　横着のツケが溜まりに溜まって、それをようやく支払った話を美談っぽくにされても素直に感動なんてできやしない。
　ミヨちゃんのそんな意見を拝聴してから、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。　

「いまのご時世、うがった見方をするぐらいでちょうどいい」

　本物と見まがうような精巧なフェイクニュースが流れ、
　国籍や距離に関係なく誰とでも繋がれるステキなツールが悪用され、
　本来の目的とは違う形に歪められつつある。動物たちの目には、
　人間の姿がどのように映っているのか、とっても気になるところ。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。