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624 ウメ
しおりを挟む下校途中にある土手の遊歩道。
なだらかな登りがあり、橋が架けてあって、反対側に渡るとゆるやかなカーブを描きながらの下りとなる。
そのカーブの付近には日差しを遮るものがないので、日当たりがすこぶるいい。
だから設置されてあるベンチとかに、晴れた日にはたまにネコが昼寝をしている。
街中にあるネコ好きの癒しスポット。
でもそれ以上に、そこは地元でも有名な場所。
いつ植えたのかはわからないが、歩道脇に十本ばかりのウメの木が昔からある。
世話をするでもなし、肥料が与えられるわけでもなし。
だというのに、毎年毎年、それは見事な紅を咲かせる。
その一角だけ、ぱっと華やかになり、ややもすれば渋滞にて機嫌を損ねているドライバーたちの気持ちを和ませ、道行く人々をほっこりさせてくれる。
地域にはウメを植えている区画もあり、毎年、季節になるとお祭りをやったりもするのだけれども、そこと比べてもこっちのほうがキレイともっぱらの評判。
そんな野生のウメ? なのだが、かつて存続の危機があった。
公共工事にて歩道整備が行われる際に、「邪魔だから切ってしまえ」と担当のえらい人が口にする。
心ある部下は、「せっかくのウメがもったいない。せめて移植を」と願うも、傲慢な上司は聞く耳もたぬ。それどころか「上司に口答えするとは生意気だ!」と怒鳴り散らし「ならオレがこんなウメ、バッサリ切ってやる!」
部下たちが止めるのも聞かずに、ノコギリを手にもった上司の男。
たぷんたぷんのお腹を揺らしながら、空高くにギザギザの刃をかかげて、「さぁ、切るぞー」と意気込む。
だがその時である!
晴天だった空がにわかに曇り、あっという間に真っ暗に。
轟々と風が吹き出し、遠くにごろごろとカミナリも。
明らかに祟りっぽい展開に、部下たちが「やめたほうがいいですよー」とこぞって説得するも、ムダに意地を張る上司。
「ビビってるんじゃねえ! タタリなんぞあるものかっ!」
ちんまい肝っ玉を奮い立たせて「いざ、参る」と枝の一本に手をかけたところで、ピカゴロドーン!
カミナリが直撃!
したのは上司の男ではなくって、近くに止めてあった彼らの作業用のトラック。
荷台の荷は爆散、炎上。
風の勢いも手伝い、火はまたたくまに全体に広がり、車は炎に包まれてしまう。
ついにはガソリンにも引火してチュドーンと爆ぜた。
呆然と一部始終を見守るしかない男たち。
その際に飛んだ小石が上司の額をガツンと打ち、彼は卒倒、そのまま救急車に運ばれることになる。
かくしてここのウメは、その美しさもさることながら祟りウメとしても大いに名を馳せ、現在に至るまで、ちょっかいを出す者もなし。
界隈の春の風物詩となりました。
「ウメってカミナリさまの花なんだってねえ。おばあちゃんが言ってた」
やや蕾を膨らましているウメの木をしげしげと眺めているミヨちゃん。
いつものごとく仲良しのヒニクちゃんとの下校中。
ちょっと寄り道して、ウメの具合を確かめにきていた。
「この分なら来週末ぐらいかな? 今年も元気に咲きそうでなにより」
精一杯に背伸びをしつつ、枝に顔を近づけ小さな鼻をすんすんしているミヨちゃん。
それを横目に見つめながらヒニクちゃんがぼそり。
「ウメ好きのカミナリさまは学問のかみさま」
学問の神さまがぶちぎれてカミナリさまにジョブチェンジ。
なおサンダーは雷鳴。ライトニングは稲光のこと。
ちなみにウメは英語にしてもウメでいいらしい。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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