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623 レンコン

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 ミヨちゃんが好きなモノ。
 少女マンガ、二時間サスペンスドラマ、警察二十四時みたいな特番、お父さん、お母さん、ヒロ兄ちゃん、タカ兄ちゃん、おばあちゃん、仲良しのお友だち、仲良しのお年寄り友だち、もふもふ系全般、お菓子、チクワなどなど……。
 なお親友のヒニクちゃんことコヒニクミコは別枠にて別格。
 このようにいっぱい大好きがあるミヨちゃん。
 近頃、そのカテゴリーに新たに仲間入りを果たした食べ物がある。
 それがレンコン。
 縁起がいい食材としてお正月料理には欠かせない野菜。
 ドロの池の中ですくすく育つ奇妙な野菜にて、作るのも収穫するのもとってもたいへん。
 寒い、キツイ、しんどい、汚いと、マイナス要素のオンパレードにて、素人では絶対に手が出せない野菜でもある。
 だからお値段も地味にお高め。
 煮物なんかをすればたいてい入っているけれども、小学二年生のミヨちゃんは濃いめの味付けはちょっと苦手。というか好む幼女の方がたぶん少数派。
 にもかかわらずレンコン愛に目覚めたのには、ちゃんと理由がある。

 数日前のヤマダ家の夕食は天ぷらだった。
 家庭で揚げる天ぷらなんで、少々、衣がボテっとするのはお約束。
 でも揚げたては問答無用でうまい!
 だからその日の食卓はいつも以上に盛り上がった。
 その中でレンコンの天ぷらを食べたミヨちゃん。
 何気に初体験にて、たいそう驚いた。
 ひと口かじるや、その小気味よい歯ざわり、レンコンのシャキシャキと天ぷらのサクサクが生み出すハーモニーが、お口の中で極上の演奏を奏でる。
 あまりの迫力にて、夢中になってモグモグするミヨちゃん。
 また油で揚げられたことにより、ホクホク感もあり、ほのかに甘い味もする。
 イモやカボチャの天ぷらとはちがうホクホク。
 レンコンは妙にスタイリッシュで洗練された食べ応えのように感じられる。
 なにより軽いのが気に入った!
 許容量が限られる幼女の胃袋にも優しい仕様。
 あと、なんとなくだけどイモとかよりもヘルシーな気がする。

「……それからはもう、わたしはレンコンのと・り・こ」

 いつものごとく仲良しのヒニクちゃんとの帰り道。
 住宅地の中にある畑の区画。その前に置かれた無人販売所にて、熱くレンコン愛を語るミヨちゃん。
 少し背伸びしつつ、棚をしげしげと眺めつつ意中の相手を探すも、あるのはタマネギ、大根、白菜、オクラとかの馴染みの野菜ばかり。

「やっぱりレンコンは置いてないか。水がないと育てられないって話だし、近所で作ってるなんて話、聞いたこともないしねえ。うーん、ざんねん」

 美味しいけれども、お値段そこそこ。
 けっして家計に優しい野菜ではない。だから安価で手に入れられる供給先を見つけられたらと考えていたのだが、そうそう上手くはいかない。
 がっくしミヨちゃん。
 テクテクと歩きだしたので、ヒニクちゃんもそれにならう。

「天ぷらとはちがう『てんぷら』もおいしいんだよ。薄いレンコンがのったやつ。でも刻んで中に練り込んでいるのは、ちょっと好みじゃないかなぁ」

 魚肉のすり身を油であげたモノ。
 いわゆるさつま揚げのこと。
 東だとさつま揚げ、西だとてんぷら。つけ揚げと呼ぶ地方もある。
 お父さんの晩酌のつまみを少し分けてもらったと、「てへへ」と照れるミヨちゃん。えくぼとともに、かわいい八重歯がちらりとのぞく。「でもミソ和えはちょっと苦手かも」と言った。
 とどまることのないレンコン愛。
 その熱い想いを受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「レンコンはハスの地下茎が肥大化したモノ」

 複数の穴が開いており、先を見通せることから、
 縁起がいいとされているけれども、駄々洩れのような気も。
 あとレンコンはダイエットにも最適食材。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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