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604 覇者
しおりを挟む茜色の空を見上げれば飛行機雲。
ずんずんとどこまでも続いている。
そしてこの空の下、世界もまたどこまでも続いており、いろんな国がいて、たくさんの人が生活している。
街角から世界の壮大さに想いを馳せられる時代に生まれたことをよろこびつつも、ミヨちゃんは思った。
「飛行機にのればギューンとひとっ飛びにて外国に行けちゃう。その気になればほんの数日で地球を一周しちゃうことも可能。それってとってもすごいこと。それってとっても便利なこと。でも……」
人も物も情報も、あっという間に海を越える。
だがしかし、それは必ずしもいいことばかりでもない。
「また新しいウイルスが発生したってニュースでやってた。コロナウイルスだったかな。空港とかで熱感知? とかの機械で侵入を防ごうとがんばっているらしいけど、たぶん無理だよねえ」
周囲を海に囲まれて、わりと隔絶している地形であってさえも、完璧に防衛することは不可能。
あまりにも人や物の流れが多すぎるから。そして早すぎるから。
感染した当人が症状を自覚する前に、国内へと入った時点でどうしようもない。
また空港や港に辿りついた時点で、周囲にも被害が拡大しているから、やっぱり拡散しちゃう。
発生源にて完璧に封殺するのが理想だけれども、それもたぶん無理。
そして風評被害やパニックなどを恐れて、国によっては情報自体をなかったことにしたり、誤魔化しちゃったり、頑なに己の非を認めなかったり。
いろんな力学が働いてうまいこといかない。
もちろん対策に勤しんでいる人々も大勢いる。
けれども敵は強大にて、勢いがあり、なおかつ自由だ。いつでもどこでも、どこからでも入りこんでは好き勝手に暴れ回る。
けれども守勢はとれる手段が限られ、活動自体もかなり制限を受ける。
カゼやインフルエンザが毎年、猛威をふるうご時世にて、より強力なウイルスならばなおさら。
人類は移動手段において革命を起こしたが、それは病気たちにとっても同様にて、人が遠くを目指すほどに、おんぶにだっこでついていく。
「ほら、よくアニメとかマンガで、高度な古代文明が滅んじゃったとかいう話があるでしょう? だいたいがどれだけ文明が発達しても、根本となる人間がダメダメにて争いにて自滅ってパターンなんだけど。わたしは思うんだよ。じつは交通機関が便利になったせいで病気が爆発的に広がるせいなんじゃないのかなぁ、なんて」
発達した技術は人と人を結び付け、国と国を結び付ける。
それは確かに幸福なことにて、平和へと通じる道だけれども、同時に争いへと通じる道でもあり、病気にとってはとっても便利な高速道路みたいなモノ。ちなみに速度制限はなし。
「人類とか文明って、何なんだろうねえ」
飛行機雲を眺めながら、しみじみそうもらしたミヨちゃん。
友の憂いを秘めた横顔を見つめながらおもむろにヒニクちゃんが口をひらいた。
「人体の常在菌の数、百兆個以上」
百兆個の常在菌、重さにすると一キロぐらいにもなるんだとか。
ヒトの病原菌は意外と少なくて五十種類程度。でも植物のは二百五十!
何が言いたいのかというと、とどのつまり地球の覇者は菌類。ここは菌の星。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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