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596 学び場
しおりを挟む大人三千円。
中学生以下の子供千五百円。
シニア五百円引き。
お値段そこそこにて、味もそこそこ。
焼肉食べ放題のお店にやってきたミヨちゃんとヒニクちゃん。
保護者としてミヨちゃんのところの二人の兄も同行。
ミヨちゃんがやっこ姉さんから招待券をもらったので、この四人での来店。
いちおう周囲の大人たちにも声をかけたのだけれども、お父さんは連日の酒がたたって胃腸の調子が悪くてパス。お母さんは自分のズボンの腰回りを気にしつつ「今回は子どもだけで楽しんできなさい」と言い、おばあちゃんは「この歳になると食べすぎで苦しくなるのはしんどいから遠慮しておくよ」
そんなわけでこのぴちぴちのメンバーで参戦。
「やるからには元を取ってやるぜ!」と意気込む高校生のタカ兄。
ミヨちゃんは「サイドメニュー制覇」を公約に掲げ、ヒニクちゃんと二人して「おー」と気合を入れる。
しかし原価とか商いのからくりを知っている大学院生のヒロ兄は「無理だって、それこそフードファイター級でもないと」と冷ややかであった。
お店は盛況にて実際に席につくまでに一時間半以上も待つ。
しかもその間中、ずっと流れてくる焼肉のいい匂いを嗅がされて続けるという焦らし攻撃。
いやでも空腹を意識させられる環境下にて強いられる忍耐。
各テーブルでは夫婦が、カップルが、家族が、友人知人同士が煙をあげる卓を囲んで、幸せそうに笑ってる。
そんな光景を隅っこからじーっと指をくわえて見ている待ち客たち。
店内は廊下を一本挟んで、天国と地獄。
地獄で飢えている餓鬼どもはひたすら念じる。
「早く早く早く」「とっとと帰れ」「無駄話はいいから喰え」なんぞと。
だというのに自分たちの番が回ってきたとたんにケロリと、そんな恨み節を忘れてしまうから、人間なんてゲンキンなもの。
ようやく自分たちの順番が回ってきたミヨちゃんたち。
店員さんに案内されて席へとつく。幸いなことに地獄から距離がある場所にて、落ち着いて食べられそうなことに、ミヨちゃんが小さな胸を撫でおろす。
「ご来店ありがとうございます。当店のシステムはご存じでしょうか」うんぬんの店員の説明をサクっと飛ばし、さっそく注文開始。
タッチパネルでピッ、ポッ、パッとやれば続々運ばれてくる品々。
じゃんじゃん焼かれ、もりもり食べられていく肉。野菜? そんなモノは不要!
ロースにハラミ、カルビにレバー、タンにホルモン各種、ウシだけでなくブタやトリにヒツジまで。壺入りの大きなお肉とかもあったり、味はタレに塩が選べたり。
兄たちがメニューにのっている肉を上から順繰りに競って食べているのを尻目に、幼女たち二人はサイドメニューの中から気になる品を頼んでつまむ。
肉そっちのけで石焼ビビンバをハフハフたべるヒニクちゃん。
ミヨちゃんは店長イチ押しのラーメンをズルズルすする。冷麺の類ではなくて完全にラーメンというところが、焼肉屋なのにやや異質。でも味はけっこうイケる。
ひたすら肉道をひた走る二人の兄。
サイドメニューをメインに、たまに肉という食べ方の末妹とその友人。
至福の時間は九十分。
もちろん目いっぱい居座って、ラストオーダーまで粘りに粘った。
そして四人そろってお腹パンパン青い顔。「ありがとうございましたー。またのお越しをー」という店員さんの元気な声で見送られることに。
くしくもおばあちゃんが言っていた通りになったミヨちゃんたち。
頭ではわかっていた。腹八分がベストだと。なのについ食べ過ぎてしまった……。
これが危険な食べ放題マジック!
「やっちまった」
嘆くミヨちゃん。すっかり膨れてポンポコリンなお腹を抱えながら「くるしいよー」
同様なヒニクちゃんが「ケフっ」とかわいいゲップののちに、おもむろに口を開く。
「後悔先に立たずとは言うけれども、なかなか……」
事が終わった後でいくら悔いても、取り返しがつかないの意味。
それを学ばせるには、食べ放題のお店は絶好の場だと思うの。
もしくは何度も同じ過ちを繰り返す自分のダメさを悟らせるのに。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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