上 下
596 / 1,003

596 学び場

しおりを挟む
 
 大人三千円。
 中学生以下の子供千五百円。
 シニア五百円引き。
 お値段そこそこにて、味もそこそこ。
 焼肉食べ放題のお店にやってきたミヨちゃんとヒニクちゃん。
 保護者としてミヨちゃんのところの二人の兄も同行。
 ミヨちゃんがやっこ姉さんから招待券をもらったので、この四人での来店。
 いちおう周囲の大人たちにも声をかけたのだけれども、お父さんは連日の酒がたたって胃腸の調子が悪くてパス。お母さんは自分のズボンの腰回りを気にしつつ「今回は子どもだけで楽しんできなさい」と言い、おばあちゃんは「この歳になると食べすぎで苦しくなるのはしんどいから遠慮しておくよ」
 そんなわけでこのぴちぴちのメンバーで参戦。
「やるからには元を取ってやるぜ!」と意気込む高校生のタカ兄。
 ミヨちゃんは「サイドメニュー制覇」を公約に掲げ、ヒニクちゃんと二人して「おー」と気合を入れる。
 しかし原価とか商いのからくりを知っている大学院生のヒロ兄は「無理だって、それこそフードファイター級でもないと」と冷ややかであった。

 お店は盛況にて実際に席につくまでに一時間半以上も待つ。
 しかもその間中、ずっと流れてくる焼肉のいい匂いを嗅がされて続けるという焦らし攻撃。
 いやでも空腹を意識させられる環境下にて強いられる忍耐。
 各テーブルでは夫婦が、カップルが、家族が、友人知人同士が煙をあげる卓を囲んで、幸せそうに笑ってる。
 そんな光景を隅っこからじーっと指をくわえて見ている待ち客たち。
 店内は廊下を一本挟んで、天国と地獄。
 地獄で飢えている餓鬼どもはひたすら念じる。
「早く早く早く」「とっとと帰れ」「無駄話はいいから喰え」なんぞと。
 だというのに自分たちの番が回ってきたとたんにケロリと、そんな恨み節を忘れてしまうから、人間なんてゲンキンなもの。

 ようやく自分たちの順番が回ってきたミヨちゃんたち。
 店員さんに案内されて席へとつく。幸いなことに地獄から距離がある場所にて、落ち着いて食べられそうなことに、ミヨちゃんが小さな胸を撫でおろす。
「ご来店ありがとうございます。当店のシステムはご存じでしょうか」うんぬんの店員の説明をサクっと飛ばし、さっそく注文開始。
 タッチパネルでピッ、ポッ、パッとやれば続々運ばれてくる品々。
 じゃんじゃん焼かれ、もりもり食べられていく肉。野菜? そんなモノは不要!
 ロースにハラミ、カルビにレバー、タンにホルモン各種、ウシだけでなくブタやトリにヒツジまで。壺入りの大きなお肉とかもあったり、味はタレに塩が選べたり。
 兄たちがメニューにのっている肉を上から順繰りに競って食べているのを尻目に、幼女たち二人はサイドメニューの中から気になる品を頼んでつまむ。
 肉そっちのけで石焼ビビンバをハフハフたべるヒニクちゃん。
 ミヨちゃんは店長イチ押しのラーメンをズルズルすする。冷麺の類ではなくて完全にラーメンというところが、焼肉屋なのにやや異質。でも味はけっこうイケる。
 ひたすら肉道をひた走る二人の兄。
 サイドメニューをメインに、たまに肉という食べ方の末妹とその友人。
 至福の時間は九十分。
 もちろん目いっぱい居座って、ラストオーダーまで粘りに粘った。
 そして四人そろってお腹パンパン青い顔。「ありがとうございましたー。またのお越しをー」という店員さんの元気な声で見送られることに。
 くしくもおばあちゃんが言っていた通りになったミヨちゃんたち。
 頭ではわかっていた。腹八分がベストだと。なのについ食べ過ぎてしまった……。
 これが危険な食べ放題マジック!

「やっちまった」

 嘆くミヨちゃん。すっかり膨れてポンポコリンなお腹を抱えながら「くるしいよー」
 同様なヒニクちゃんが「ケフっ」とかわいいゲップののちに、おもむろに口を開く。

「後悔先に立たずとは言うけれども、なかなか……」

 事が終わった後でいくら悔いても、取り返しがつかないの意味。
 それを学ばせるには、食べ放題のお店は絶好の場だと思うの。
 もしくは何度も同じ過ちを繰り返す自分のダメさを悟らせるのに。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

小児科医、姪を引き取ることになりました。

sao miyui
キャラ文芸
おひさまこどもクリニックで働く小児科医の深沢太陽はある日事故死してしまった妹夫婦の小学1年生の娘日菜を引き取る事になった。 慣れない子育てだけど必死に向き合う太陽となかなか心を開こうとしない日菜の毎日の奮闘を描いたハートフルストーリー。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...