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595 幻想

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 雪がちらつくロマンチックなホワイトクリスマス。
 あいにくとそんなモノとは縁がないのが、ミヨちゃんとヒニクちゃんの住む地域。
 雪なんて数年に一回、チラッと降ればいいぐらい。降ったところでまず積もらない。
 だから聖なる夜にホワイトなんて現象、実際に見たこともないのが実情。
 でもその時期になると世間がざわつき、街も艶やかになり、人心もときめく。
 イルミネーションがあちこちで点灯し、お馴染みの曲が流れ、幸せなそうな男女の光景も……。
 というのをテレビの画面を通して毎年見ているミヨちゃん。
 あいにくと小学二年生は日が暮れる前には家に帰るので、夜の街を見る機会がほとんどない。
 たまにお母さんの買い物に付き合って、夕暮れ時の商店街をうろつくことはあるが、アレはちょっとちがう気がする。
 シーズンになるとそれっぽいコマーシャルが流れ、テレビの番組内でも特集が組まれたりする。
 美味しそうなケーキ、トリの丸焼き、素敵なデートスポット、プレゼントに最適なおしゃれなアイテム(女性限定)などなど。
 殿方のサイフに優しくない仕様については、いささか気の毒なれども、どれもキラキラだ。
 そんなキラキラに目を輝かせつつ、ミヨちゃんは言った。

「ねえ、お兄ちゃんたちはクリスマス、どうするの?」

 幼女に悪気があったわけではない。
 毎年、家族でクリスマスを過ごしていることに不満があるわけでもない。
 けれども大学院生と高校生の二人の兄、ぴちぴちの青少年、貴重な青春時代をソレでいいのか? とちょっと思っただけのこと。
 末妹の言葉にビクリとなった二人の兄。
 コホンとわざとらしい咳払いののちに、長兄は諭すように優しい声音で言った。

「ミヨ、クリスマスは伝説の生き物なんだ。テレビのあれはファンタジーなんだよ。ドラマとかアニメといっしょ、妄想の産物なんだ」

 うんうんとうなづく次兄。
 さらに言った。

「そうそう。ついでにバレンタインデーもデマだ。あれはお菓子メーカーが流しているウソ情報なんだぞ。だって下駄箱にチョコとか、ばっちいだろう? あちこち歩いたクツと食べ物をいっしょにするなんてありえねえ。便所でカレーを食べてるようなもんだよ」

 ひどい例えである。
 兄たちの発言を受けて、末妹は「へー、そうなんだー」と気のない返事をしておいた。
 幼いながらに空気を読んで察したのであった。

 年明け、一発目。

「あけましておめでとうございます」

 仲良しのヒニクちゃんに新年のご挨拶がてら、じつは年末にこんなことがあったんだと話すミヨちゃん。
 ヤマダ家では聖なる夜を、清く正しく慎ましやかに家族にて過ごした。
 それすなわち、いい子であったということ。これぞクリスマスの本来の過ごし方の模範。
 なのにサンタさんは素通り。
 いや、物品的な意味ではちゃんと支援してくれたけれども、ようは心の問題。
 オールナイトでフィーバーしていた悪い子たちがクリスマスを謳歌して、正しいはずの兄たちを哀れみ、ときに一方的に「かわいそう」と見下す。
 とにかく何をするにもどこへ行くにも一人者の肩身が狭い。
 そんな風潮が世に蔓延している。
 華やかで賑やかで、いかにも景気が良さそうなのに、一方ではそんな難民たちを生み出している。それもけっこうな数を。
 ひょっとしてトータルで見たら、むしろ景気が減退しているのではなかろうか。

「クリスマスっていったい何なんだろうね」

 ミヨちゃんが遠い目をしてぽつり。「もしかしたらハリボテなのかも」
 これをうけておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。 

「クリスマス、大半が家族で過ごしてるというデータがあるらしい」

 もっとも世界中の恋人たちと家族ならば、圧倒的に家族の方が多いから
 これは当たり前の結果。なお恋人と過ごす系はメディアによって
 生み出された風習との通説。なおこれは断じて負け惜しみなどではない。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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