587 / 1,003
587 門
しおりを挟むイチゴのパック売り。
いつかは丸ごと一人で食べてみたいとの野望を密かに胸に抱くのは、小学二年生のミヨちゃん。
お母さんといっしょにスーパーマーケットへお買い物中。
母親が入念に野菜を吟味している脇で、そんなことを考えながらおとなしく待つ。
すると果物売り場にて、とある現場を目撃してしまい非常にショックを受けた。
見知らぬオッサン。
眉間にしわを寄せて吟味をしていたのはミカン。
べつにそれは問題ない。
問題なのは箱入りで販売されていた中身をぶちまけ、一つ一つ厳選したやつを詰め直すという荒業をしていたこと。
いやいやいやいや。
箱入りや袋入りの商品って、販売側が大きさや重さなんかを調整して詰めているはず。
それを好き勝手にほじくり返して詰め直すという行為。
これは果たしてアリ? ナシ?
大好きなイチゴに当てはめて考えてみるミヨちゃん。
ある程度の粒はそろっているものの、大きいのもあれば小さいのもある。ちょっと形が悪いのとかも混じっている。デパートの地下とかに軒を連ねる一流店とかとはちがい、スーパーに並ぶ品だもの。価格相応の品質に落ち着くのはしようがない。
で、もしもこのオッサンのようなマネをしたら……。
かなりアウトのような気がする。
それに他の購入者は、オッサンがいじくり倒した品を買うことになってしまう。
これもまたけっこうアウトのような気がする。
なんぞということを考えながら、オッサンの行為をじーっと見つめていたミヨちゃん。
ふいに幼女の視線に気がつき、照れたり、バツが悪そうな顔をするのならば、まだ可愛げがあったのだが、こともあろかオッサンは幼女をギラリと睨み、ガンを飛ばすという暴挙に出る。
ずっと年上の大人から向けられる悪意の波動は、純真無垢な乙女にはキツイ。
ひえーと半べそをかき、ミヨちゃんはお母さんのところに逃げる。
急にヒシッとしがみついてきた末娘。わけが分からずに首をかしげるお母さんなのであった。
翌日の教室にて、このことを口にしたミヨちゃん。
話を聞いた友だちは、全員、目くじらを立てる。
「非常識でしょう。最悪じゃない!」とアイちゃん、激高。
「小さな子が食パンの袋をつつくのはたまに見かけるけど、ふつうにお母さんに怒られるってのに、いい歳こいて何やってんだよ」とリョウコちゃん、呆れ顔。
「買い物慣れしてないオッサンって、けっこう厄介だよ」とはチエミちゃん。なんでも未だに「お客様は神様」みたいなカビの生えた考えの持ち主がちょろちょろしているらしい。店員に対して横柄な態度をとったり、レジでお金を出すときに乱暴だったり、しょうもないことで機嫌を損ねて怒鳴り散らしたり……、そういうトラブルの渦中にはだいたいオッサンがいるとのこと。
なおミカン詰め替え事件については、幼女そろって「アウト!」判定。
「いまの時代、そんなことになってたんだ……」
酸いも甘いもかみ分け、熟成された色香を漂わし、ダンディの称号を手にしているはずの年代が、そんな残念なことになっていると知り、ちょっとショックを受けているミヨちゃん。
それを見て、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「ダンディに進化するには、まず紳士魂を磨かないと」
日頃の心がけ、言動に気をつけ、常に紳士たれと生きる者にのみ、
ダンディへの門が開かれる。あと、そういう奴に限って、
自分は賢いとか思い込んでいるから、関わらないのが吉。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小児科医、姪を引き取ることになりました。
sao miyui
キャラ文芸
おひさまこどもクリニックで働く小児科医の深沢太陽はある日事故死してしまった妹夫婦の小学1年生の娘日菜を引き取る事になった。
慣れない子育てだけど必死に向き合う太陽となかなか心を開こうとしない日菜の毎日の奮闘を描いたハートフルストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる