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583 大喰い

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 先週末のこと。
 おばあちゃんに連れられてお出かけした帰り。
 ミヨちゃんはとあるラーメン店に立ち寄る。
 すると店内が異様な盛り上がり。
 なにごとかと思えば、お店のデカ盛りメニューにチャレンジしている男女の姿が。
 男性はラグビーでもしているのか、筋骨隆々にてシャツから中身がもれそうなほどに、ぱっつんぱっつんの大男。
 女性は音大生っぽい、いかにもお嬢さま風にて、とっても細身。
 対照的な二人がなぜだか並んで大喰いをしている。
 ちなみに彼らの目の前には成人が二人がかりでも担げないぐらいに大きな器。
 中身はなんと! ラーメン十人前分プラス、モヤシが山となっている。
 制限時間四十五分。汁まで完食にて、ボーナス一万円。
 でもチャレンジ失敗したら八千円のお支払い。

 店内を巻き込んで、やんやの騒ぎ。
 それを尻目に席についた祖母と孫娘。
 おばあちゃんは、この手の食べ物で遊ぶような行為はあまり好きではない。大喰いタレントとか、大喰い大会とかには否定的な意見の持ち主。かといって、それを楽しんでいる場で発言するほど子どもではないので、シレっと冷たい視線を送るに留めておく。
 ミヨちゃんもそんな薫陶を受けて育っているので、食べ物を粗末にするのはあまり……、でも気になっちゃう。
 だからチロチロ、男女の方をチラ見。
 水を運んできた店員に、「あれはなんの騒ぎだい?」とおばあちゃんが訊ねた。
 ただのチャレンジにしては奇妙な組み合わせにて、周囲の盛り上がりも少しおかしいと感じた上での質問。

「あぁ、じつは男性の方が女性に告白したようで。それで女性が『わたしに勝てたら考えてあげてもいいわよ』と言ったんだとか」

 美女と野獣のような組み合わせ。
 だが美女はとんだ小悪魔だったらしい。
 こんな勝負に持ち込んだ時点で、よっぽど自信があったのだろう。
 もちろん負けたらお支払いも敗者持ち。
 応じた男性も、あの体格ゆえにそれなりに勝算はあったのだろうが……。

「ありゃあ無理そうだねえ。それにしても意地の悪いことを考える女だよ。もしも成功したところで、散財させられてオケラになって終いさねえ」
「オケラ?」

 首をかしげるミヨちゃんに、オケラとは一文なしになることだと教えるおばあちゃん。
 時代劇もそこそこ視聴する孫娘は、一文がお金のことだと知っているので、「へー」と感心する。

「たしかにデートのたびにアレだと、ちょっとやってられないかもね。あんな調子で食べられたら、いくらお金があっても足りやしないよ」

 納得したミヨちゃん、額から汗を滝のように流しながら奮戦している男に生温かい視線を向け、心のうちにて「がんばれ」とエールを送る。
 だが幼女の応援もむなしく、男女の差は広がる一方。
 女性は一切ペースを落とすことなく、ひょうひょうとお上品に平らげている。
 お箸の使い方も巧みにて、これにはおばあちゃんも「ほぅ」と感心。
 しかし男の方は、もう、ただただ見苦しかった。なんていうかあっちもこっちもびっちゃびちゃ。
 やがてアラームが鳴り、チャレンジ終了。
 女性の方の器はすでに空となっており、男性の方は残り三分の一ぐらい。
 スープを吸ってぶくぶくに膨らんだ麺が、うどんほどにもなっており、ラーメンがなにやら違う料理に変化していた。

「……なんてことがあったんだよぉ」と語るミヨちゃん。

 いつものごとくヒニクちゃんとの帰り道でのこと。

「でもあの残り、どうするんだろうねえ。他の料理とかならばお持ち帰りとかできると思うけど、じゅくじゅくのラーメンは無理だろうと思うんだけど。何か専用の容器でもあるのかなぁ。さすがに処分しているとかだと、引いちゃうけど」

 そこのところ、どうなのよ? との幼女の素朴な疑問。
 表向きは「きちんと適切に」なんて言ってるけれども、裏ではどうしていることやら。
 これを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開く。

「オケラになるの由来は昆虫説と植物説がある」

 昆虫のオケラは、正面からみると万事お手上げのポーズにて、
 賭場で負けて無一文となることを裸虫といい、これに見立てたとか。
 植物のオケラは、根の皮をはいでクスリにつかう。これに身ぐるみを
 はがれるのを見立てたとか。大喰い? わたしもおばあちゃんに賛成かな。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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