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574 紅葉

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 下校途中の土手の上から、遠くに見えるのは地元の名もなき山の峰々。
 とりたてて何がどうということもない、ありふれた景色。
 それが師走に片足を突っ込んだあたりになって、ようやく赤く色づき始めた。

「あいかわらず、うちの紅葉は遅いよねえ。世間ではロマンチックに『イルミネーション点灯!』とかやっているというのに」

 そうボヤいたのはミヨちゃん。
 秋の見ごろの紅葉シーズン。とかテレビのニュースが取り上げては、各地から見事な景色を中継しているのを尻目に、ちっとも赤くならない地元の山。
 生えている木の種類とか、地形や気温など、いろんな状況が絡み合って変化するのが自然であるがゆえに、みなが秋になったら一斉に葉を紅くするわけではない。
 そんなことは幼女といえども理解している。
 だからとて、いくらなんでものんびりし過ぎであろう。
 もうちょっとやる気をみせてくれよ。
 と、ミヨちゃんは言いたいわけ。

「あの山の奥にはそれなりに由緒のあるお寺とかもあって、紅葉が楽しめる庭とかもあるって、おばあちゃんが言ってたんだけど……」

 一見すると何もない山に見えて、実際に行ってみればちゃんと道路も通っているし、バスも走っている。民家や集落も点在しており、人の営みもそれなり。
 だからその気になれば紅葉狩りにだって行けちゃう。
 しかし、向こうは山。
 街中に比べて空気がいい分、気温が数段低めに設定されており、日が沈むのも早い。
 コートやダウンジャケットなどで完全防寒にて、わざわざ赤い葉っぱを見に行くぐらいならば、いっそ冬を待って雪景色を楽しみたい。
 ぶっちゃけ、子どもとしては色の変わった葉っぱよりも、降り積もった雪で遊びたい。
 ミヨちゃんの住む地域ではほとんど雪は降らない。降ったとしてもまず積もらない。
 積雪五センチ程度で地元は大騒ぎになる。
 子どもたちは我さきにと外にくり出し祭りでフィーバー。

「今年は夏が長かったし、ようやく涼しくなったと思ったら、もう冬だし。秋が短かすぎて秋物を着る機会がほとんどなかったよ。うちのクローゼットはすでに冬仕様になりつつあるの」

 半袖シャツの役目が終わったと思ったら、いきなり長袖ヒートテックの出番。
 打順を飛ばされた秋物たちは、プラスチックの衣装ケースの底にて悔し涙を流す。
 そして子どもの成長は早いから、来年になったらきっともう……。

「お気に入りのカーディガンとか、いったいいつ着たらいいんだろう。冬だと部屋着の上着としてはちょっと寒いし、夏のエアコンの冷え対策? なんだか丸の内のOLさんっぽいかも」

 秋の紅葉から端を発したミヨちゃんの話。
 ふらふらした挙句に行き着いたのは秋物衣料の使い道について。

「四季がどんどんとあいまいに……。はっ! これがひょっとして地球温暖化の影響なのか?」

 夏が昔より暑くなった。ときおり洒落にならない豪雨が降る。
 台風なんて家が吹き飛ぶ災害級にて、各地で被害甚大。氷が溶けて北極グマたちが右往左往し、そしてヤマダ宅では秋物衣料が活躍の場を奪われている。
 マクロなのにミクロ。世界規模から家のタンスの引き出しレベル。すごいのか、そうでないのか、ちょっと首をかしげたくなるようなことをミヨちゃんが口走ったところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「ストップ温暖化」

 声高にみんなお題目ばかりをナムナム唱えるのだけれども。
 実際のところ、何をやったらいいの? 大人たちは何をしているの?
 太陽光発電や風力発電が各地に増えたけど、その分、何かが減ったの?
 わざわざ野山の自然を壊して、それにふさわしい成果はあったの?
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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