上 下
569 / 1,003

569 ちびくろサンボ

しおりを挟む
 
 とある商店が潰れた。
 まぁ、潰れたというよりかは寄る年波には勝てずに、店主が「もういいかな」と廃業を決意したのだけれども。
 かつては隆盛を誇っていた商店も、大手スーパーの出現、コンビニエンスストアの台頭、あげくのはてにはインターネット通販が全盛の時代に突入。
 ネットで頼んだ商品が、その日のうちに手元へ届く。
 圧倒的資本を背景に、世界規模の企業がやりたい放題にて市場を荒らされては、とても個人商店では太刀打ちできない。
 売上は右肩下がりにて、年々落ちまくり、ついに底を打つ。
 それでも商売を続けていられたのは、従業員を雇うことなく家族だけの経営だったから。
 つまり唯一対抗できていたのが人件費ということ。
 が、それももう限界。
 だから自ら看板を下ろすことに決めた。
 でも、そうなると困る人たちもいる。
 ご近所さんたちだ。
 かつてはママチャリを乗り回して東西南北、時には隣の市まで距離を厭わずかっ飛ばし、一円でも安い品を求めて奔走していた狩人たち。
 彼女たちもまた歳を経た。
 脚力は衰え、体はあちこちガタがきて、顔を合わせれば口をついて出てくるのは病気自慢ばかり。
 自然と近場にての狩りへと落ち着いていく。
 そんな老いた狩人たちからすると、商店がなくなることは死活問題。
 よもや自分が買い物難民になるとは……、と愕然。
 六十五歳以上になると市から支給されるバスのフリーパスがあるので、その気になればバスで市中央部へと出れば買い物は可能。
 が、これがなかなか億劫だ。
 わざわざバスに乗って買い物という行為が、地味にハードルが高い。
 買い物カートを使ったところで、一度に運べる量は限られるし、乗り降りの際にはたいへんだし、ニオイが気になるし、他の乗客の目も気になる。
 かといって年寄りのマイカー運転は、最近、いろいろと世間がうるさいし……。
 はてさて、どうしたものか。

 と、いったことが各地で起きている。
 自分の周囲ではまだまだ縁がないけど、同市内でも隅っこの方になるとすでに現実味を帯び始めている。
 いつものごとくヒニクちゃんとの下校中のこと。
 茜色に染まる空を見上げてミヨちゃんが言った。

「でも、これって起こるべくして起こったことだよね」

 より良い品をより安く。
 お客がそれを求めて、売り手もまたこれに答えようと精一杯努力した。
 利益を出すために、より過剰となるサービス。より激しくなる過当競争。暴走する資本主義。
 だが誰かが得をすれば誰かが損をする。誰かが楽をすれば、その分だけ誰かが苦労を背負いこむのが世の理。
 配送業が悲鳴をあげた。問屋が悲鳴をあげた。システム担当が悲鳴をあげた。関係各所にて悲鳴があがった。
 人と物と金の循環が軋み、歪み、おかしくなって回らなくなった。

「結局、みんなが自分で自分の首をしめちゃったのかなぁ」

 ミヨちゃんがしみじみ漏らし、現状を憂う。
 それを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開く。

「好景気という幻想は、未来を食い潰す行為なのかもしれない」

 成長と景気は両輪のような関係。
 なのに成長を止めて、景気だけ激しく動かしたところで、
 同じところをグルグル。いずれ溶けてバターになっちゃうかもね。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ガダンの寛ぎお食事処

蒼緋 玲
キャラ文芸
********************************************** とある屋敷の料理人ガダンは、 元魔術師団の魔術師で現在は 使用人として働いている。 日々の生活の中で欠かせない 三大欲求の一つ『食欲』 時には住人の心に寄り添った食事 時には酒と共に彩りある肴を提供 時には美味しさを求めて自ら買い付けへ 時には住人同士のメニュー論争まで 国有数の料理人として名を馳せても過言では ないくらい(住人談)、元魔術師の料理人が 織り成す美味なる心の籠もったお届けもの。 その先にある安らぎと癒やしのひとときを ご提供致します。 今日も今日とて 食堂と厨房の間にあるカウンターで 肘をつき住人の食事風景を楽しみながら眺める ガダンとその住人のちょっとした日常のお話。 ********************************************** 【一日5秒を私にください】 からの、ガダンのご飯物語です。 単独で読めますが原作を読んでいただけると、 登場キャラの人となりもわかって 味に深みが出るかもしれません(宣伝) 外部サイトにも投稿しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

狐侍こんこんちき

月芝
歴史・時代
母は出戻り幽霊。居候はしゃべる猫。 父は何の因果か輪廻の輪からはずされて、地獄の官吏についている。 そんな九坂家は由緒正しいおんぼろ道場を営んでいるが、 門弟なんぞはひとりもいやしない。 寄りつくのはもっぱら妙ちきりんな連中ばかり。 かような家を継いでしまった藤士郎は、狐面にていつも背を丸めている青瓢箪。 のんびりした性格にて、覇気に乏しく、およそ武士らしくない。 おかげでせっかくの剣の腕も宝の持ち腐れ。 もっぱら魚をさばいたり、薪を割るのに役立っているが、そんな暮らしも案外悪くない。 けれどもある日のこと。 自宅兼道場の前にて倒れている子どもを拾ったことから、奇妙な縁が動きだす。 脇差しの付喪神を助けたことから、世にも奇妙な仇討ち騒動に関わることになった藤士郎。 こんこんちきちき、こんちきちん。 家内安全、無病息災、心願成就にて妖縁奇縁が来来。 巻き起こる騒動の数々。 これを解決するために奔走する狐侍の奇々怪々なお江戸物語。

高槻鈍牛

月芝
歴史・時代
群雄割拠がひしめき合う戦国乱世の時代。 表舞台の主役が武士ならば、裏舞台の主役は忍びたち。 数多の戦いの果てに、多くの命が露と消えていく。 そんな世にあって、いちおうは忍びということになっているけれども、実力はまるでない集団がいた。 あまりのへっぽこぶりにて、誰にも相手にされなかったがゆえに、 荒海のごとく乱れる世にあって、わりとのんびりと過ごしてこれたのは運ゆえか、それとも……。 京から西国へと通じる玄関口。 高槻という地の片隅にて、こっそり住んでいた芝生一族。 あるとき、酒に酔った頭領が部下に命じたのは、とんでもないこと! 「信長の首をとってこい」 酒の上での戯言。 なのにこれを真に受けた青年。 とりあえず天下人のお膝元である安土へと旅立つ。 ざんばら髪にて六尺を超える若者の名は芝生仁胡。 何をするにも他の人より一拍ほど間があくもので、ついたあだ名が鈍牛。 気はやさしくて力持ち。 真面目な性格にて、頭領の面目を考えての行動。 いちおう行くだけ行ったけれども駄目だったという体を装う予定。 しかしそうは問屋が卸さなかった。 各地の忍び集団から選りすぐりの化け物らが送り込まれ、魔都と化しつつある安土の地。 そんな場所にのこのこと乗り込んでしまった鈍牛。 なんの因果か星の巡りか、次々と難事に巻き込まれるはめに!

砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎ 〜Romance in Abū Dhabī〜 【Alphapolis Edition】

佐倉 蘭
キャラ文芸
都内の大手不動産会社に勤める、三浦 真珠子(まみこ)27歳。 ある日、突然の辞令によって、アブダビの新都市建設に関わるタワービル建設のプロジェクトメンバーに抜擢される。 それに伴って、海外事業本部・アブダビ新都市建設事業室に異動となり、海外赴任することになるのだが…… ——って……アブダビって、どこ⁉︎ ※作中にアラビア語が出てきますが、作者はアラビア語に不案内ですので雰囲気だけお楽しみ下さい。また、文字が反転しているかもしれませんのでお含みおき下さい。

【完結】パンでパンでポン!!〜付喪神と作る美味しいパンたち〜

櫛田こころ
キャラ文芸
水乃町のパン屋『ルーブル』。 そこがあたし、水城桜乃(みずき さくの)のお家。 あたしの……大事な場所。 お父さんお母さんが、頑張ってパンを作って。たくさんのお客さん達に売っている場所。 あたしが七歳になって、お母さんが男の子を産んだの。大事な赤ちゃんだけど……お母さんがあたしに構ってくれないのが、だんだんと悲しくなって。 ある日、大っきなケンカをしちゃって。謝るのも嫌で……蔵に行ったら、出会ったの。 あたしが、保育園の時に遊んでいた……ままごとキッチン。 それが光って出会えたのが、『つくもがみ』の美濃さん。 関西弁って話し方をする女の人の見た目だけど、人間じゃないんだって。 あたしに……お父さん達ががんばって作っている『パン』がどれくらい大変なのかを……ままごとキッチンを使って教えてくれることになったの!!

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

処理中です...