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564 池掃除

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 水を抜いて、底をさらい、ゴミなんかを回収しないと、池の水はあっという間に濁ってしまう。
 かといって、何トンどころか何十トン、下手したらそれ以上もの水量を抜いての掃除は、とってもたいへん。
 費用も人手もとんでもなくかかっちゃう。
 だから実施されるのは行政のバックアップを受けつつ、数年おきに一度だけ。
 今年は、その大掃除の年。
 とはいえ景気はあまり振るわないし、税収を落ち、出ていくお金が増える一方。
 正直、ちょっと懐事情が厳しい行政は、そこで考えた。

「自分たちが小さい頃、ため池の水を抜くときは、近所が総出でちょっとしたお祭り騒ぎだった。ウナギやら鯉やらナマズやら、ドロだらけになって手づかみで捕ったもの。そうだ! これを復活させよう。みんなでハシャギながら大掃除大会としゃれこもう。そうすれば人件費が大幅に浮く」

 行政や政治が人の善意をあてにする。
 ボランティアという精神と行動は、とっても素晴らしいけれども、不確定要素満載にて移ろいやすいモノを初めから勘定に入れるのは、どうかと思わなくもないけれども、とりあえず「よし! やってみよう」ということに。
 でも予算がないので告知はネットメイン、ポスターは地元の小学生にお願い。
 大人たちの都合にて、「池掃除の告知をテーマにした絵」という題材にて書かされた子どもたちこそ、とんだとばっちり。
 そしてそんなとばっちりを、「ばっちこーい」と受け止め、あっさり最優秀賞に選ばれたのがミヨちゃんが描いたポスター。
 この時点で、池掃除への強制参加が決定してしまう。まさかポスターで呼びかけた当人が不参加では格好がつかないので。
 代金は市長からの表彰状。丸い筒の置き場に何げに困っちゃうミヨちゃん。いっそ四角だったらおさまりがいいのに。とぶつくさ言いながら本番を迎える。
 ミヨちゃん居るところにヒニクちゃんありにて、彼女も参戦。

 公園の池はけっこう広いので、水抜きの作業自体は一週間ほど前から業者が行っていた。
 すっかり干上がった汚泥を前に、集まったボランティアたち。総勢百と八。
 イベント開始を前に、まずは背広姿の市長がご挨拶。壇上に立つ。
 格好からして、どうやら当人は入る気がないらしい。それを見ていた参加者からは「こりゃあ、来期は落選だな」「あぁ、ウソでもこういうところでいっしょにドロにまみれるポーズが大切なのに」「昔はもっと熱い人だったんだけどねえ」「燃え尽きたというか、老けた?」などという声がひそひそ。
 これに耳をそばだてていたミヨちゃん。

「何期も続けていると、いつの間にか根腐れを起こすって、おばあちゃんが言ってたよ。池の水といっしょで、定期的に入れ替えないとすぐにダメになるって」

 幼女の言葉を聞いた周辺の大人たちが、一斉にうんうん頷く。
 よもやこの時のミヨちゃんのひと言が、小池の一石となり、波紋を産み出し、次期市長選の流れを決定づけることになろうとは知るよしもない、現市長。
 得意気に「いかに今回のイベントを思いついて、モロモロが削減されて、市の財源に貢献したか」を語っていた。
 結果的に自分で自分の首を絞めていることに、微塵も気づきもせずに。
 壇上に立つ、そんな憐れな大人を眺めながらヒニクちゃんがポツリ。

「リアル版、策士、策に溺れるの図」

 行政が良かれと思ってやったこと。その成功率って一体……。
 三割打てれば強打者の野球。逆に考えればトップアスリートですら、それが限界。
 だとすると現状は、それほど悪くないのかしら?
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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